第1話 凡人
下手に話すと、自分が凡人であることがバレてしまう。
聞いているようで聞いていない。理解しているようで理解していない。
そんな状況に雨浦夢宙は、心臓がいつもより速く鼓動するのを感じながら、周囲の天才たちに合わせて相槌を打っていた。
(マズイ……。指されたら絶対に答えらんねぇ……)
どうして自分がこんな状況に置かれているのか。
思わず「わかんねぇよっ‼︎」と悪態をつきたくなる気持ちを抑えながら、夢宙は度々解答者を選出する講師の声と、次々と解答していく周りの声を聞きながら、渡された資料のページを必死の思いでめくる。
(つーか、なんでみんな答えられんだよ……！ 同じ新入社員だよなっ⁉︎)
夢宙はこれまで生きてきて、これといった〝壁〟に遭遇したことがなかった。
強いて言えば、生まれつき髪色が白いことと、少し変わった名前をしているので「夢宙に夢中ってこと？」と揶揄われたことがある程度だろう。
しかし、夢宙は自分の名前を結構気に入っているので、何のダメージにもなっていなかった。
いなかったのだが……。
就職をしてから始まった研修は、夢宙にとって〝壁〟以外の何者でもなかった。
「初学者向けだし〜。新入社員しか受けないし〜」と油断していたら、講師の言っていることが何も理解できないレベルの研修だったのだ。
しかも、周りはどうやら理解しているらしい。自分だけが取り残された状況は初めてだった。
(わかんねー……つったって、どこがわかんねーんだ、私は)
そんな状況で、夢宙は頭を回転させていた。
理解しようと足掻いてみても、結局は周りについていくことさえ、できていないのだが。
「じゃあ次は……雨浦さん！」
ぴしゃりと名前を呼ばれ、夢宙は半ば諦めながら、目を瞑って覚悟を決めた。
夢宙は「どうにでもなれ‼︎」と目を見開き、声を張り上げる。
「すんません‼︎ わかりません‼︎」
