アウトオブあーかい部! 30話 たまには
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
3度の飯より官能小説!池図女学院1年、赤井ひいろ!
趣味はケータイ小説、特筆事項特になし!
同じく1年、青野あさぎ!
面白そうだからなんとなく加入!同じく1年、黄山きはだ!
独り身万歳!自由を謳歌!養護教諭2年生(?)、白久澄河!
そんなうら若き乙女の干物4人は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
池図女学院部室棟、誰もいない静かな部室でひいろは独り、ボーッとしていた。
「ふぅ……。」
(いつもだいたい2人以上で他愛もない雑談を交わしたり、ときには小突きあったりする狭い部室も、1人だと広く感じられる。)
「たまには、静かなのも悪くないな……。」
(今日はあーかい部の活動が無い日、あさぎやきはだは来ない。来るとしたら、仕事をサボりに白ちゃんが
「あら?」
……早速やって来た。
「今日は部活無い日のはずだけど。」
「そっくりそのまま返すよ。」
(さっきまで良いと言っていた静かな空気が壊されたのに、何故か悪い気はしないな。)
憎まれ口を叩くひいろの口角が僅かに上がっていた。
「どうしたの?もしかして私に会いたくなっちゃったとか。」
「だったら保健室に行ってるよ。」
「それもそうね。」
それからしばしの間、さっきよりちょっとだけ狭くなった部室は、また静かな空気に包まれた。
「ねえ、ひいろちゃん。」
再び静かな空気を壊したのは白ちゃんだった。
「どうした、白ちゃん。」
「今さら聞くのもって感じだけど…………それ、辛くない?」
「『それ』?」
「ほら、『〜だ』とか、『〜だぞ』とか言ってる、それ。」
「ああ、この口調のことか。」
「うん。」
「そういえば、発端は白ちゃんだったな。」
※0話参照
ひいろが白ちゃんに敬語を使わないのは、他でもない白ちゃんからの頼みによるものだ。
ひいろにとって、もともとは白ちゃんだけに使うつもりだったものが、今ではすっかり日常的なものになっている。
「……もう、慣れたよ。」
「なら良いんだけど……って、押しつけた私が言うのもどの口がって感じよね。」
白ちゃんは半ば自虐的に笑って見せた。
「それに……感謝しているよ。」
「え?」
「この口調に引っ張られて、ワタシは前より社交的になれた。他の先生や生徒会からも偶に頼られるくらいにはな。……とても入学前のワタシでは考えられないよ。」
今度はひいろが自虐的に笑って見せた。
「……もともとが白ちゃんの性癖フィルターっていうのは未だに解せないがな。」
「う"……!?」
敬語でしおらしかったかつてのひいろは白ちゃんにとってドストライクだったため、今のひいろの口調は白ちゃんのストッパーとして機能している。
「その節は大変申し訳ございませんでした。」
「……だな。」
「そこは『そんな事ないよ』って言ってくれる流れじゃないの!?」
「やはり今からでもポリスメンした方が良いか……?」
「遡及刑罰反対!」
「冗談だよ。」
「冗談に聞こえないのよ……。」
白ちゃんが肩を下ろすと、ひいろは少し考えるような仕草をして、
「冗談ついでに、試しに口調を戻してみようか?」
「えっ!?」
「ちょうど今日は、あさぎもきはだも来ないことだしな。」
「えっ、ちょっ!?
「ダメ……ですか?」
ひいろの声色から覇気が失せ、ほんの少しトーンが上がった。
「!?……まだ許可してない///」
白ちゃんは無言でひいろの頭を抱き寄せ、大型犬にするようにわしゃわしゃと頭を撫でまわした。
「嫌……でした?」
「嫌なわけないでしょうがぁぁぁあ!///」
理性の敗北である。
「えっと、白久先生はワタシの何がそんなに刺さってるんですか……?」
「全部。」
「……。」
時に、人は容易に語彙力を失う。
「……ねえひいろちゃん。」
白ちゃんの手がピタリと止まった。
「な、なんですか……?」
「これ、着けてくれない?」
白ちゃんは白衣の裏ポケットから黒いチョーカーを取り出した。
「なんでそんなの持ってるんですか……!?」
「私はこれで理性を保っているの。」
「聞きたくなかったです……。」
ひいろのテンションがダダ下がりするのを他所に、白ちゃんはチョーカーの留め具を嬉々として外した。
「つ、着けませんよ!?」
「着けて?」
「ヤ、ヤです!」
「ありがとうひいろちゃん♪」
まっすぐ明後日の方向を見つめる白ちゃんは有無を言わさずひいろの首にチョーカーをつけようと手を伸ばした。
ひいろは抵抗するがまるで歯が立たない。
「いや、何に対して!?……って、力強いな!?」
「あ、ごめん……。」
咄嗟に出た言葉で白ちゃんは正気に戻ったようだった。
「まったく、ここまでオンオフはっきりしてると逆に怖いな……。」
「返す言葉もございません。」
「そもそも白ちゃんのこれは何の欲求なんだ……?」
「何の……う〜ん、『飼いころがしたい』欲?」
「飼いころ……え?初めて聞く日本語なんだが……。」
「『飼いころがしたい』欲。」
「いやそれはわかってるって。具体的に白ちゃんはワタシをどうしたいんだ?」
「首輪着けて撫でまわして吸ってお風呂に入れたい。」
「……。」
ひいろは無言でスマホの画面を3回タップし
「ポリスメンはやだああぁぁぁ……!」
「今のは10人中11人がアウトだろう。」
「1人呼ばないでえぇぇ……!」
ひいろは自身の足元に縋りついて悲壮感増し増しに喚く成人女性を哀れみの目で見下ろした。
「……はぁ。」
耐えかねてひいろはスマホをしまった。
「通報しないっ!?」
「しないよ……。」
「本当に?」
「やっぱりするか。」
「だめえぇぇ……!」
自身の一挙手一投足で一喜一憂する目の前の成人女性を見て、ひいろは思わず笑みが溢れた。
「……フフ♪」
「……なによ?」
「やはり、ワタシにはこっちの方が合っているようだな♪」
「複雑……。」
勝ち誇るひいろに白ちゃんがいじけていると、足音が2つ部室の前で止まりドアが開かれた。
「「あれ(ぇ)?」」
足音の主はあさぎとひいろだった。
「2人ともどうしたの?今日は部活無い日だけど。」
「それを言うなら2人ともだよぉ。」
「私は部活なくてもサボりに来るわよ?私のアジトだし。」
「アジトってなあ……。」
「っていうかひいろ、先に帰るって言ってたけど……!?」
「まあ良いじゃないか。これで全員集合だな♪」
「あれぇ?ひいろちゃん、そのチョーカー……。」
「げ
「フフ、似合うだろう?今日限定だ♪」
「……変なの。」
「せっかくだし何か話していくか?」
「だねぇ。」
「うん。じゃあ、今日は何について話そうか……?」
うら若き乙女の干物4人は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった。