表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第3幕【第1章ː地獄の合宿編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/229

第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿1日目・個別練習(高田・千堂編⑦)

ダンベルラックの横、マットの敷かれたトレーニングスペース。その壁際に、重たげなメディシンボールがいくつか並んでいる。


「次はローテーションスロー。これ、見た目以上にキツいから気をつけてな」


そう言って、高田優斗は黒くてずっしりとした3kgのメディシンボールを手に取った。野球ボールとは違い、全体に重心があるその球体を軽く胸元で抱えながら、壁の正面に立つ。


「目的は、体幹の“ひねり”で投げること。腕の力だけで投げたら意味がない。バットスイングの“回転軸”を鍛える感覚でやる」


足は肩幅、右足を少し後ろに引く。腰を大きくひねってタメをつくり──


「ふっ!」


メディシンボールが壁にぶつかる鈍い音を立てて跳ね返る。**ゴンッ!**という低い音とともに、空気が一瞬揺れたような感覚が、千堂の胸を打つ。


「このとき、投げ終わったあとにバランスを崩さないように。体幹で止めるんだ。スイングも一緒。振ったあとに“止まる力”が必要になる」


高田はもう一度、今度は反対方向から同じ動きを繰り返す。今度は左足を後ろに引いてのスロー。


「右打ちならこっちの方が“逆方向”になるけど、どっちもやる。回旋力って、片方だけだとバランス崩れるから」


千堂は3kgのメディシンボールを手に取り、壁に向かう。


「ちょっと重いですね……」


「それくらいがちょうどいい。軽いと腕だけで投げちゃう。しっかり腰から回すこと。腹筋と背中の筋肉を“絞る”ように使う」


千堂は足を開き、身体を右にひねって構える。左足を壁側に置き、右足をやや後方へ。グリップを握るようにメディシンボールを構えた。


「……よし、いきます!」


「ひねって、“ドン”と打ちつける!」


──ドンッ!


ボールが壁に当たり、やや不規則に跳ね返る。千堂はバランスを崩しかけて、慌てて片足を出して体勢を整えた。


「惜しい、悪くない。でもな、投げたあとに体が流れるってことは、体幹がまだ抜けてる。力を入れるのは“ひねるとき”と“止めるとき”。それ以外は、力まない」


千堂はうなずき、もう一度構える。今度は呼吸を合わせ、ひねりに集中して──


「ふっ……!」


──ゴンッ!


「おっ、いい音出たな。今のは軸が通ってた。打撃で言えば、芯で捉えて振り切った感じに近い」


その言葉に、千堂の口元が少し緩む。


「じゃあ、次はこれ。片膝立ちでやってみよう」


高田が右膝を地面につけ、左足を前に出す“片膝姿勢”をとる。


「これだと下半身が固定されるから、上半身と体幹だけで回す必要がある。腰の切れがないと、うまく飛ばない」


構えたまま、ひと呼吸──そして、スロー。


──ドンッ!


「こっちは“体幹だけで打つ”感覚に近い。例えば、インハイの速球をさばくときに、下半身を使いきれない局面があるだろ? そういうときに、この力が生きてくる」


千堂も片膝をつき、慎重に構えながらスローに挑む。


──ゴン……ッ


「よし。今のは悪くない。あとは、もう少しだけ上体の“締まり”を意識するとさらに伸びるよ」


「はい、わかりました!」


何度か繰り返すうちに、千堂の動きにもキレが出てきた。スローのたびに空気が振動し、ウェイトルームの奥からも、振り返る選手の視線が向けられる。


「よし、これで今日の体幹メニューは終了。……でもな、こういう地味なメニューをどれだけ積み上げられるかが、夏の差になるんだよ」


「……はい。やります、必ず」


汗を拭いながら、千堂はまっすぐに高田を見つめた。その目には、少しずつ“レギュラーへの執念”が宿りはじめていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ