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スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第3幕【第1章ː地獄の合宿編】

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第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿1日目・個別練習(高田・千堂編④)

「さて、次はちょっと実戦寄りのメニューだ」


高田がロッカーから引っ張り出したのは、オレンジ色のトレーニングチューブだった。手早く支柱に巻き付けると、自分の腰にセットする。


「チューブローテーション。バット持って、スイング動作な。チューブで“体の回旋”を強制的に意識させる」


千堂も同じようにチューブを腰に掛け、構えを取る。


「引っ張られてバランス崩すだろ? でも、その状態で回すんだよ。腹で持ってく感覚、わかるか?」


軽くミットのようなグラブで合図を出した高田の前で、千堂がスイングする――


「っ……!」


背中のラインが歪んだ。バランスを崩し、チューブの引きに体が流れる。


「ほらな。まだ“軸”が真ん中にねえ。もっと下半身から回せ」


千堂は唇を噛んで再び構える。

踏み出しと同時に、腹の内側で体をねじるイメージを持ちながら――


シュッ!


チューブが震え、軸足に力が戻ってくる感覚。

ほんの一瞬、スイングの中に「溜め」が生まれた。


「今の、ちょっと近づいたな」


「……ほんとに、腹で回すんですね」


「そう。“腰で回す”じゃ遅い。“腹で捻って戻す”。これができりゃ、外角の変化球にも食らいつける」


次に高田が持ち出したのは、低い位置にセットされたケーブルマシン。


「ローテーションリフト。下から斜め上へ引く動きな。投球も打撃も、軸の回転力が要だ」


高田は無駄のない動きでケーブルを斜めに引き上げ、体の軸を斜めに切るように伸ばしていく。


「これは肩で引くんじゃない。腰と腹で“斜めの力”を作る。見ろ、背中のラインがまっすぐだろ?」


千堂が真似ると、体が上体だけで引こうとして、すぐにブレた。


「もっと、足から連動させろ。打撃も投球も一緒だ」


何度か繰り返すうちに、千堂の斜めの軌道が安定しはじめる。


「次は“体幹走”だ」


今度は外の人工芝エリアに移動し、マーカーを使ってステップエリアを作る。

手を腰に当てた高田が説明する。


「この走りで一番大事なのは、“ぶれない腰”。腹で動いて、上半身は後からついてくるイメージで走れ」


ダッシュ、サイドステップ、切り返し――高田の動きは、どれもブレがない。軽やかで軸が通っていた。


「こっから、盗塁のスタートとか、内野の一歩目の精度が変わってくるぞ」


千堂も繰り返し、腹に力を入れながら走る。

ほんの数メートルの短い動きだが、体幹にかかる負荷が段違いだった。


「……最後だ。インターバルスクワット×スイング」


高田がバットを持ち、スクワットを10回。すぐに3スイング。


「これで、下半身から上半身への“連動”を確認する。走りも守備も打撃も、ここで全部つながる」


千堂もスクワットを10回。

足が震えはじめた状態でバットを構える。


(ここで崩さず振る……)


1スイング目――体がぶれた。

2スイング目――膝が折れかける。

3スイング目――腹に力を込めて、最後の一撃を振り抜く。


「……いいね。今の、下半身から振れてた」


汗だくの千堂に、高田が小さく頷いた。


「お前のスイング、軽かったんだよ。今日で、ちょっと重みが出てきた」


千堂はバットを握り直した。


「これを毎日やれば、“決定打”が打てますか?」


高田は、グラウンドの夕焼けに目をやった。


「……そうだな。“決定打”は、筋肉で打つんじゃねえ。毎日の積み重ねが、勝手にバットに宿る。それだけの話だ」


千堂は黙って頷き、もう一度、スクワットを始めた。


本当の意味での“強さ”――

その輪郭が、少しずつ見え始めていた。

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