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スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第3幕【第1章ː地獄の合宿編】

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第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿1日目・個別練習(高田・千堂編③)

静的体幹トレーニングを終えた千堂陸の額からは、ぽたぽたと汗が滴り落ちていた。


「次は、動きながら“使える体幹”を作るぞ」


高田が、壁際からバランスボールを転がしてくる。

少し擦れた青の球体は、使い込まれた痕跡を示していた。


「まずはこれ。バランスボールスクワット。背中に挟んで、ゆっくりしゃがんで立ち上がる」


高田がデモンストレーションを見せる。

背中でボールを壁に押し付けたまま、フォームを崩さずに沈み込む。

膝の角度が直角になったところでピタリと止まり、静かに戻る。


「腹と背中の連動がポイントな。背筋で耐えろよ、前に倒れるな」


千堂もボールを背中に挟み、ゆっくりとしゃがみこむ。

だが――


「うわ……けっこうグラつく……!」


「それがいいんだよ。動きの中で体幹を使えてないと、グラつく。つまり、“無意識”に使える体にするための練習だ」


バランスを保つたびに、腹と背中の奥の筋肉がピリピリと反応するのがわかる。

千堂は黙々と5回、10回と繰り返す。


「……なるほど。さっきの静的より、じわじわ効きますね」


「次はこれ」


高田が手に持っていたのは、3キロほどのメディシンボールだった。


「メディシンボールツイスト。座って、足を浮かせたまま、ボールを左右にひねる。腹斜筋にビシビシくるぞ」


両脚を浮かせた状態で、左右にリズムよくツイストする高田。その身体の軸はブレていない。


「これ、バットスイングの感覚にめっちゃ近い。腹でひねる感覚、覚えとけ」


千堂も同じように足を浮かせ、メディシンボールを持って左右にひねる。

バランスを崩さないよう必死に耐えながらも、腹の内側が焼けるような感覚に包まれた。


「次! ランジ&ツイスト!」


高田が今度は、前へ一歩踏み出しながらメディシンボールを持って腰をひねる。

左足で踏み出して、右方向へツイスト。反対側も同様に。


「股関節の可動域、腹のひねり、全部つなげろ」


千堂も見様見真似で踏み出しながらツイストする。


「うっ……!」

体のバランスが崩れ、後ろにふらついた。


「そのふらつきが、打撃や守備に出てるってこと。これ、毎日5分だけでもやってりゃ絶対変わる」


千堂は歯を食いしばりながら再び踏み出す。

足裏の踏ん張り、腹のひねり、背筋の伸び――すべてを意識する。


「ラスト、バードドッグな。四つ這いで、右手と左足をまっすぐ伸ばす。腰を反らすなよ」


高田が静かに手足を伸ばす。背中は一直線。肘も膝もピンと伸びている。


「これ、簡単そうに見えて、けっこう難しいんだよ。支えてる方の膝と腕でバランス取って、腹で支える」


千堂が真似て動くと、伸ばした手がふらつき、体がややねじれていた。


「腹! もっと意識しろ!」


「は、はいっ……!」


背中と腹の奥を意識し、姿勢を修正。

5秒、10秒とキープしながら交互に手足を変える。

ゆっくりとした動きだが、汗が滲んで止まらなかった。


「……よし、今日の“動的体幹”はここまでだ」


床に手をつき、息を整える千堂を、高田が見下ろす。


「ちゃんと、体で理解できたか?」


千堂は大きく息を吐いたあと、力強く頷いた。


「……はい。言葉じゃなくて、筋肉でわかりました」


「それが大事だ。ここで感じたことが、守備や打撃で“当たり前”になるまでやる。それが、高校野球で勝つってことだ」


千堂は、こぶしを軽く握った。


この汗の一滴一滴が、自分を変えていく――

そう確かに、感じていた。



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