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スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第3幕【第1章ː地獄の合宿編】

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第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿1日目・ケースバッティング(1年生編⑪)

――2アウト、三塁。


あと一人、そう思いながらも、井上の表情にはまだ不安が残っていた。


前の打席でフェンス際の打球を佐藤が信じられないような守備で掴んでくれた。だが、すぐに気を緩められる状況ではない。


(頼む……ここで終わらせてくれ)


そう祈るような目で、井上は田中のサインに頷いた。


――初球、外角低めのストレート。


カーン――!


乾いた音と共に、打球はライト方向へと飛んだ。


「やられた……!」


井上が反射的に思った次の瞬間――


土煙が上がった。


「……取ったァ!!」


セカンド・高橋拓海が、全力で横っ飛びし、右手のグラブで打球を掴んでいた。


(捕った……!)


無意識に起き上がる動作。体をひねるようにして膝を支点に立ち上がり、すぐさま一塁へ送球。


送球はわずかにバウンドしたが、一塁手のグラブに収まり――


「アウトッ!!」


三死チェンジ。


一瞬の静寂。そして、それを破るようにして、ベンチから歓声が起きた。


「拓海ナイス!」「あの体勢からよく投げた!」


「今のは痺れたな……!」


一塁ベース上の高橋は、荒い息をつきながらも、表情は変わらない。だが、そのグラブを強く握りしめる仕草に、静かな闘志が滲んでいた。


「今の高橋の一歩目……あれがあるかないかで、試合の流れは変わる」


「ええ、あの打球は……普通、ライト前ですよ。うまく打たれた……でも、それを止めた」


「打球のコースも難しかった。あれが常に出せたら三好もうかうかとしてられないな。」


コーチ陣の評価は高い。何より、それが千堂や佐藤のプレーと並ぶ“価値のある守り”だということを、誰もが感じていた。


淡々と、黙々とプレーするタイプの高橋だからこそ、その守備には重みがあった。


ベンチに戻る途中、高橋の肩を千堂が軽く叩いた。


「……あれは俺も簡単には真似できねぇや」


「……ありがとう」


この一連の守備で、ピンチの中に差し込んだ光は、確かに存在していた。

失敗もあったが、1年生それぞれ個性が出せたものだった。


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