第2幕: 高校1年生の春──先輩たちの壁
初めて横浜桐生学院のグラウンドに立った千堂陸は、周りの先輩たちのレベルの高さに、思わず息を呑んだ。
「これが、名門校の実力か…」
練習が始まり、アップを終わらせた先輩たちが本気で練習に打ち込んでいる。打撃練習では、球がバットに当たる度に鋭い音が響き、守備練習では、打球がピッチャーゴロでも一瞬でアウトにされていく。その動きはどれも洗練され、まるで流れるようだった。
「なにこれ、俺なんか足元にも及ばない…」
陸は心の中で自分を卑下していた。リトルリーグ時代は周囲に圧倒的に速さで差をつけていたが、ここではそのスピードが単なる一要素に過ぎないことを痛感していた。打撃、守備、走塁のどれもが、これまでの対戦相手とは比較にならないほど高いレベルで完成されていた。
そんな中、目を引いたのは、同じ遊撃手のポジションである先輩だった。彼の名前は高田 優斗 。肩の力が抜けたようにリラックスした姿勢で、打球を次々にさばいていく。
(あれ、獅子丸と似てる…)
高田先輩は、獅子丸のプレースタイルに似た、豪快でありながらも柔軟な動きを見せていた。速さと力強さ、そして巧みなバットコントロールを持ち合わせており、どんな打球も素早く、正確にさばいていた。陸の目には、まるで自分の目の前に獅子丸が現れたように感じられた。
「1年生か?」
高田先輩がふと目を合わせ、ニヤリと笑った。
「練習ついてこれそうか?」
その言葉に、陸は心臓が一瞬跳ね上がるような感覚を覚えた。高田先輩の目には、圧倒的な自信と実力がにじみ出ており、その存在感はまさに「名門校の選手」と呼ぶにふさわしいものだった。
「もちろんです!」
陸は声に出して答えた。その声には、どこか決意が込められていた。
これからの厳しい練習の中で、高田先輩や他の先輩たちと切磋琢磨し、1年生として成長しなければならない。そして、いつか自分もこの場所で輝けるようになりたい。
そのためには、まずは目の前の壁を乗り越える必要がある。
その瞬間、陸は深呼吸をして、心を落ち着けた。そして、明日から始まる厳しい練習に向けて、全身に力を込める。