第2幕: 高校1年生の春──横浜桐生学院
横浜桐生学院は、神奈川の名門校として知られ、毎年のように甲子園への出場を果たす強豪校だ。ここでは、入学当初からそのレベルの高さに圧倒される新入生が後を絶たない。特に野球部は、過去数十年にわたり、数々の名選手を輩出してきた。その実績は、全国大会での優勝経験を持つだけでなく、春夏を問わず甲子園に進出し続けていることで広く知られている。
春の暖かな陽射しが、横浜桐生学院の新しい学年を迎えるキャンパスに差し込んでいた。今日は新入生の入学式。数百人の新入生たちが、緊張と期待を胸に、校庭に集まっていた。陸はその中でも、ひときわ目立つ存在だった。周囲の生徒たちの多くは、顔に自信を浮かべているが、彼の胸の中では不安と緊張が入り混じっていた。
「これから、どうなるんだろうな」
周囲の生徒たちは、早速友達同士で会話を楽しんだり、携帯で情報を交換したりしていたが、陸はその場に馴染むことができず、どこか遠くに目をやる。
「千堂陸君?」
校門をくぐると、すぐに受付で名前を呼ばれた。そこで待っていたのは、野球部の部員だ。彼は、赤と白を基調にしたユニフォームを身にまとっていた。ユニフォームには、肩から胸にかけて鋭角的なラインが走り、白地の中に赤が鮮やかに映えている。胸元には「桐生」の文字が力強く刺繍され、そのデザインが一層部員の威厳を引き立てていた。
「君が新入生か。入学おめでとう。これから、君も一緒に頑張る仲間だ」
その部員が微笑みながら手を差し出す。その手を握りしめると、陸の中に少しだけ安心感が広がった。だが、まだ自分の立場はわからない。名門校である横浜桐生学院に入学してきたことが、果たして自分にどんな意味を持つのか──。
入学式が始まると、校長の話が続く。式典の進行に合わせて、陸は自分が入学してきたこの場所の歴史と、その重みを少しずつ感じ始めていた。だが、すぐにその歴史の中で、実際にこの学校で野球をするという現実が押し寄せてくる。
入学式が終わり、野球部の練習が始まる。
新しいユニフォームに身を包み、陸はそのままグラウンドへ向かう。ここで、自分がいかに未熟であるかを痛感することになった。