第2幕: 高校1年生の春──紅白戦終了 1年生のそれぞれの課題⑤
次に呼ばれたのは、松岡竜之介。
「松岡、お前は長打を打てる力を持っている。」
監督は最初にそう言った。
「そのパワーは間違いなくチームにとって重要な武器だ。実際、お前が相手に与えるプレッシャーは相当なものがある。」
松岡は黙って聞いていた。しかし、次の言葉が続くことも、彼はわかっていた。
「だが、プレッシャーに負けて、結局お前自身がその力を発揮できていない場面が多かったな。」
松岡の拳がわずかに震える。
「……はい。」
試合のことが頭をよぎる。
何度も回ってきたチャンス。
ここで一本打てば流れを変えられる――そんな場面で、ことごとく凡退した。
「四番が『打てなかった』時点で、相手は楽になるんだよ。」
監督の言葉が、松岡の胸に突き刺さる。
「もちろん、結果がすべてじゃない。打てない時もある。それは仕方ない。」
だが、と監督は続けた。
「問題は、お前が『打てなかった理由』だ。」
松岡は息をのむ。
「お前は、プレッシャーがかかる場面で、“自分のスイング”を捨ててしまっていた。」
「……!」
「打つべき場面で力んでしまう。その結果、打てる球を逃し、難しい球に手を出していた。」
まさに、試合中の自分だった。
(俺は、打たなきゃいけないと思えば思うほど、体が固くなっていた……)
「お前の打撃の最大の敵は、『自分自身』だ。」
監督は続ける。
「普段の練習ではしっかり振れているのに、試合になると違うスイングをしている。それじゃあ打てるわけがない。」
松岡は唇を噛んだ。
「四番が打てなければ、チームは点を取れない。それくらいの責任があるポジションだ。」
「……わかっています。」
「なら、どうするべきだ?」
松岡は少し考えてから、答えた。
「……どんな場面でも、ブレずに自分のスイングをする。」
監督は小さく頷いた。
「それができるようになれば、お前は本物の四番になれる。」
松岡は強く拳を握る。
「だがな――そのためには、お前はまだ“圧倒的な打者”にはなれていない。」
監督の言葉に、松岡は顔を上げる。
「お前のスイングは確かに強い。だが、まだ“本当に打ち負けないスイング”ではない。」
松岡は一瞬、息を飲んだ。
「お前がプレッシャーに負けず、自信を持ってスイングできるようになるためには、もっと確実に“長打を打てる技術”を身につけなければならない。」
監督は松岡を真っすぐ見据える。
「四番に必要なのは、“いつでもホームランを狙える確実性”だ。」
松岡はその言葉を、しっかりと胸に刻み込む。
(俺は……まだ、四番にふさわしい打者じゃない)
試合でどんな場面でも、自分のスイングを貫けるようにならなければならない。
そのためには――
(もっと、圧倒的な打撃力をつける)
「……わかりました。」
松岡は拳を握り、監督をまっすぐ見た。
「俺は、試合で迷わず振れる“本物の四番”になります。」
監督は満足げに頷いた。
「期待してるぞ。お前が成長すれば、チームの得点力は大きく変わる。」
松岡は静かに息を吐いた。
この試合で見えた自分の課題。
次こそは、迷わず振る――。




