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スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第2幕: 高校1年生の春

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第2幕: 高校1年生の春──紅白戦終了 1年生のそれぞれの課題③

次に呼ばれたのは、佐藤悠真。

「佐藤、お前の足はチームでもトップクラスだ。」


 監督はまず肯定するように言った。


「それに、守備範囲も広く、俊敏な動きができる。足の速さを活かせる場面は多いだろう。」


 佐藤は少しホッとしたように聞いていたが、監督の表情はすぐに引き締まった。


「……だが、それを活かせる『打撃』ができているか?」


 その言葉に、佐藤はぐっと口を引き結んだ。


「お前はこの試合、送りバントはしっかり決めた。だが、それ以外の打席ではほとんど何もできなかったな。」


「……はい。」


「出塁できれば、お前の足を活かして一気にチャンスを広げられるのに、それ以前の問題として『塁に出ること』ができていなかった。」


 佐藤は自分の打席を思い返す。


 三振、凡打、雑な打撃ばかりだった。

 

「お前の役割は何だ?」


 監督が静かに問いかける。


「……チャンスメイクです。」


「そうだ。」


 監督は頷く。


「ならば、何よりも優先すべきは、『出塁すること』だ。」


 佐藤は拳を握る。


「お前は、長打を狙うタイプじゃない。もちろん、長打が打てるならそれに越したことはないが、お前の持ち味はまずその『足』だ。」


 監督は続ける。


「だったら、まずはその『足』を最大限活かせる打撃をしろ。」


「……!」


「この試合、お前はただ『振りにいく』だけの打撃になっていた。だが、それじゃあ意味がない。お前がやるべきなのは、確実に塁に出ることだ。」


 佐藤は、試合中の自分を思い返す。

 がむしゃらにバットを振って、結果として力んで凡打を重ねた。


(俺は、何を焦ってたんだ……?)


「お前は、フルスイングすることを意識しすぎて、バットコントロールを疎かにしていた。お前の一番の役割は、どんな形でもいいから『出塁』することだ。」


 監督ははっきりと言った。


「もっと柔軟に考えろ。バント安打でもいいし、流し打ちでもいい。打ち方にこだわるんじゃなくて、『どうすれば塁に出られるか』を考えろ。」


 佐藤は、ハッと目を開いた。


「そもそも、お前はバッティングの時に『俺のスイングで打たなきゃいけない』って思い込んでるだろ?」


「……」


 確かに、彼はどこかで「フルスイングして打たなきゃいけない」という考えを持っていた。


「お前はもっと出塁にこだわれ、お前がランナーになれば、それだけで相手にとっては脅威になる。」


「……!」


「だから、お前はまず『確実に出塁するための打撃』を身につけろ。お前の目標は『ヒットを打つこと』じゃない。『ランナーとして相手をかき乱すこと』だ。」


 監督の言葉が、佐藤の胸に突き刺さる。


「……わかりました!」


 佐藤はしっかりと顔を上げ、監督を見据えた。


「俺は、どんな形でも出塁できるバッターになります!」


 監督は満足げに頷いた。


「それでいい。お前の足が最大の武器なんだから、それを活かせる形を考えろ。」


 佐藤は拳を握る。


 自分の目指すべきバッター像が、ようやく明確になった。



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