第2幕: 高校1年生の春──紅白戦終了 1年生のそれぞれの課題②
最初に呼ばれたのは、千堂陸。
「お前はこの試合で一番ヒットを打ったな。」
監督は淡々と言う。
「盗塁も決めたし、チームの勢いを作る役割は果たした。」
千堂はその言葉を聞きながら、次の言葉を待つ。
「……だが、それで点が取れたか?」
「……いいえ。」
千堂は歯を食いしばった。
確かに自分は出塁し、走塁でもプレッシャーをかけた。
だが、最終的に得点に繋がったのは1回だけだ。
「お前は流れを作る力はある。だが、今のままだと『勢い』は生み出せても、『完全に流れを掴む決定打』にはならない。」
監督は続ける。
「この試合、お前が何度出塁しても、最後に必要だったのは『あと一本』だったな。」
千堂は無言になる。
「お前の武器はスピードと出塁能力。それは十分に高校野球でも通用する。だが、それだけでは点を取ることはできない。」
監督は千堂の目をまっすぐ見た。
「お前には、もっと『ここぞで打てる長打』が必要だ。」
その言葉に、千堂は目を見開いた。
「今のお前は、単打と盗塁でチャンスを作ることはできる。だが、自分のバットで確実に点を取れる打者ではない。」
「……!」
「仮に、この試合で一本でもホームランを打っていたら、どうなっていたと思う?」
千堂は想像する。
もし自分にホームランを打てる力があれば――
シングルヒットではなく、一撃でダイヤモンドを回れる力があれば――
盗塁をしなくても、一振りで得点が入る。
傾きかけていた流れを完全にこちらに持ってくることができていた。
「お前は、スピードに頼りすぎている。もちろん、それはお前の最大の武器だ。だが、それだけでは厳しい場面で点を取り切れない。」
監督は静かに続ける。
「今のままでは、お前は『試合の流れを作る選手』にはなれても、『試合の流れを完全に引き寄せる選手』にはなれない。」
千堂は息を飲む。
「打率が高いだけでは、試合には勝てない。勝ちを呼び込むには、試合を決定づける一振りが打てるかどうかが重要だ。」
「……」
「今後、お前が長打を打てる選手になった時、本当の意味でチームを勝たせる1番打者になれるだろう。」
千堂はゆっくりと息を吐いた。
確かに、この試合では自分が何度出塁しても、結局最後の1点が取れなかった。
どれだけ足を使っても、最後に必要なのは『一撃で試合を決める力』だった。
(今の俺じゃ、まだ『点を取り切る力』が足りない……)
自分は、ただ『流れを作る選手』ではいけない。
『試合の流れを完全に引き寄せる選手』にならないとあいつには、勝てない。
千堂は拳を握り、静かに決意した。
(俺は……もっと強くならなきゃいけない)
俊足のリードオフマンでありながら、一振りで試合を変えられる選手になるために――。
「……わかりました。」
監督は千堂の返事を聞くと、小さく頷いた。
「お前の戦いはこれからだ。覚悟して練習に臨めよ。」
「はい!」
千堂陸は、新たな課題を胸に、グラウンドを後にした。




