第2幕: 高校1年生の春──紅白戦 秘蔵っ子井上の課題とは⑤
5回裏
最初の打席ではエンドランを決めた2年生捕手・江原が打席に立つ。
(そろそろ捉えねえと……)
しかし、井上はこの回もストレートで勝負。
初球、外角高めのストレート。江原は様子を見て見送る。
「ストライク!」
(打ち頃なはずなんだが……)
2球目、内角低めのストレート。江原は迷わず振りに行く。
「ブンッ!」
空振り。
(やばい、詰まるかと思ったら、当たりすらしねえ……)
井上のストレートは、普通の140km/h以下の球速のはずなのに、打者の手元で沈まずに伸びる。
江原はカウントを追い込まれ、3球目もストレートを狙う。
「ストライク! バッターアウト!」
江原、三振!
井上は相変わらず淡々とマウンドに立ち続ける。
そして打席には、3年生の3番・高田優斗。
(江原も三振……? 井上の球、やっぱりおかしいな)
しかし、高田は豪快なスイングを武器にする打者。
これまでの2軍打線が井上の球を打ち損じていたのを見ながら、一つの違和感に気づき始めていた。
(ストレートなのに、普通より落ちねえんだ……なら、上から叩く必要はねえ)
初球、井上はまたしてもストレート。
「カキンッ!」
高田はフルスイングしたが、打球はファウルゾーンへ大きく舞い上がった。
(……やっぱり、思ったより沈まねえ)
2球目もストレート。高田は少し遅れてバットを振るが、打球はレフトスタンドへ入るファウル。
2球続けて、いい当たり。
「おい、高田、捉えてきてるぞ」
2軍ベンチがざわつく。
(石上の言う通り……こいつのストレート、球速は普通なのに、沈まない分、ほんの少しだけ差し込まれる)
ならば――
高田は、バットの角度をほんの少しだけ調整した。
井上はここまで全てストレートで勝負してきた。
(まだ打てない……)
セットポジションから、井上は3球目を投げる。
高田は、その球をしっかりと見極め――
「カキーンッ!!!」
鋭い打球が一直線にレフト方向へ――
「入った……!!」
ボールはそのまま、レフトスタンドへ飛び込むホームラン!
「ホームラーーーン!!!」
ついに2軍チームが、井上から初得点を奪った。
ダイヤモンドを回る高田は、ベンチの仲間に向かって笑う。
「攻略したぞ」
ベンチの2年生たちも、ようやく突破口を見つけたという表情だった。
一方、井上は無表情のまま、静かに帽子のつばに手をかけた。
(やられたか……)
1年生ベンチも、これまでの空気とは違う雰囲気を感じ始めていた。
「井上が打たれた……」
ただの一本ではない。2年生チームが、井上の球筋を掴みかけた証拠の一打。
スコアは11-0。




