第2幕: 高校1年生の春──紅白戦 秘蔵っ子井上の課題とは③
ここで、打席には1番・石上。
チームが2回以降、1本もヒットを打てていない状況に、石上は少しだけ違和感を感じていた。
(こいつの球、遅いだけじゃない……?)
井上の球に詰まって凡退する打者が続く中、石上は試合の流れを冷静に見ていた。
初球、外角ストレート。
「ボール!」
(少し外れたか……でも、これは普通のストレートに見える)
2球目、今度は真ん中高めのストレート。
石上は、わざとバットを振らず、ミットに収まる様子を見た。
「ストライク!」
井上の球が、普通のストレートとどう違うのか――それを確かめるように。
(なるほど……こいつの球、沈まねぇんだ)
普通のストレートなら、もう少し落ちてくるはずの球が、浮いたまま伸びている。
次の球、石上は狙いを定め、踏み込む。
3球目、インコースのストレート。
「カキンッ!」
打球は詰まりながらも、強い打球がサード横へ飛ぶ。
しかし――
「ファウル!」
惜しくもラインを切れたが、ここまで誰も捉えられなかった井上の球を、石上は初めて強く弾き返した。
(やっぱり……こいつの球、狙いを変えれば打てる)
2年生ベンチからも、石上の打球に対する驚きの声が上がる。
「今の、ちょっと捉えてなかったか?」
「そろそろ攻略できそうか?」
しかし、井上は表情を変えず、球を握り直した。
石上は、完全にストレート狙い。
(もう一球来るなら……次こそ仕留める!)
井上は静かにセットポジションに入り、間を取らずに投じる。
「ストライク!! バッターアウト!!」
石上のバットは空を切った。




