第2幕: 高校1年生の春──紅白戦 秘蔵っ子井上の課題とは①
スコアは10-0。
2年生チームの圧倒的なリードのまま迎えた3回裏。
しかし、2回裏の最後に登板した井上宏樹が、わずか2球で2アウトを奪い、静かにマウンドへ立ち続けていた。
2年生ベンチの雰囲気は依然として余裕があったが、マウンド上の井上は淡々と投球を続けていた。
(この回も簡単に終わらせるわけにはいかねえ)
5番打者が打席に入る。
1球目、外角低めのストレート。
「ストライク!」
(意外とゾーンに入れてくる……?)
2球目、内角のストレートを強振。
「カキンッ!」
しかし、打球は詰まり、高く上がった。
「ファースト!」
松岡竜之介が落ち着いて構え、キャッチ。ワンアウト!
続く打者は、ボールをよく見極めようとする。
(とりあえず球筋を見極めるか……)
初球、外角ストレート。見送る。
「ボール!」
(よし……狙いはストレート)
次の球、再びストレートが来る。打ちに行く――
「カンッ!」
詰まったセカンドフライ!
高橋拓海が落ち着いてキャッチし、ツーアウト!
2年生ベンチから、少し焦りの混じった声が漏れる。
「おいおい、なんで打ち上げてるんだよ……?」
しかし、3人目の打者は構わず、初球から狙いに行った。
(なら、俺は初球から振る!)
1球目、ストレート。強振――
「ゴンッ!」
ボテボテのサードゴロ!
「サード、処理して!」
サードが冷静に一塁へ送球し、アウト!
「チェンジ!」
わずか7球で三者凡退。
「……あれ?」
2年生ベンチに、一瞬の沈黙が流れる。
スコアは10-0。 依然として大差はついたままだ。
だが、2年生打線は「この回も確実に追加点を取れる」と思っていた。
それが、わずか7球で終わった。
(なんでこんなに詰まるんだ……?)
一方、1年生ベンチでは、少しずつ雰囲気が変わり始めていた。
「井上、すげえ……」
「このまま抑えてくれれば、まだ……!」
マウンドを降りた井上は、淡々とグラブを脱ぎながら、静かに呟く。




