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スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第2幕: 高校1年生の春

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31/229

第2幕: 高校1年生の春──紅白戦 秘蔵っ子井上の課題とは①

スコアは10-0。

2年生チームの圧倒的なリードのまま迎えた3回裏。


しかし、2回裏の最後に登板した井上宏樹が、わずか2球で2アウトを奪い、静かにマウンドへ立ち続けていた。


2年生ベンチの雰囲気は依然として余裕があったが、マウンド上の井上は淡々と投球を続けていた。


(この回も簡単に終わらせるわけにはいかねえ)


 5番打者が打席に入る。


 1球目、外角低めのストレート。


「ストライク!」


(意外とゾーンに入れてくる……?)


 2球目、内角のストレートを強振。


「カキンッ!」


 しかし、打球は詰まり、高く上がった。


「ファースト!」


 松岡竜之介が落ち着いて構え、キャッチ。ワンアウト!


続く打者は、ボールをよく見極めようとする。


(とりあえず球筋を見極めるか……)


 初球、外角ストレート。見送る。


「ボール!」


(よし……狙いはストレート)


 次の球、再びストレートが来る。打ちに行く――


「カンッ!」


 詰まったセカンドフライ!


 高橋拓海が落ち着いてキャッチし、ツーアウト!


2年生ベンチから、少し焦りの混じった声が漏れる。


「おいおい、なんで打ち上げてるんだよ……?」


 しかし、3人目の打者は構わず、初球から狙いに行った。


(なら、俺は初球から振る!)


 1球目、ストレート。強振――


「ゴンッ!」


 ボテボテのサードゴロ!


「サード、処理して!」


 サードが冷静に一塁へ送球し、アウト!


 「チェンジ!」


 わずか7球で三者凡退。


「……あれ?」


 2年生ベンチに、一瞬の沈黙が流れる。


 スコアは10-0。 依然として大差はついたままだ。


 だが、2年生打線は「この回も確実に追加点を取れる」と思っていた。

 それが、わずか7球で終わった。


(なんでこんなに詰まるんだ……?)


 一方、1年生ベンチでは、少しずつ雰囲気が変わり始めていた。


「井上、すげえ……」


「このまま抑えてくれれば、まだ……!」


 マウンドを降りた井上は、淡々とグラブを脱ぎながら、静かに呟く。

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