表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第1幕
3/151

第1幕【第1章ː対照的な天才~価値観のズレ~】

少年時代から共にプレーしてきた二人だが、中学に上がり、次第にその野球観の違いが明確になり始めた。お互いに尊重し、支え合ってきたが、それが次第に対立へと変わっていく。


ある日の練習後、グラウンドの片隅で二人は顔を突き合わせていた。汗を拭い、疲れた体を休めるために座っているものの、無言のままで何かがうまくいかない空気が流れていた。


「なあ、陸。俺、思ったんだよ。やっぱり俺みたいに、4番で一発決める打者がいないと、勝てないんだよな」


獅子丸が唐突に口を開いた。彼の目は真剣だが、どこか挑戦的な輝きを持っていた。


「お前さ、いつもそれだな。ホームラン打てばそれで勝てるっていう考え方。違うだろ?」


陸は少し眉をひそめながら言った。いつもなら、何気なく流していたその言葉が、今日はどうしても引っかかった。


「試合を決めるのは、4番の一撃だって言ってんだよ! 何回言わせんだ。お前、毎回盗塁とかバントとかさ、そんな地味なプレーばっかりしてるけどさ。俺みたいに一発で決められたら、こんなに楽なのに」


陸は一瞬黙ってしまう。獅子丸のその言葉は、確かに彼の目指す野球を否定されたような気がした。


「違うんだよ、獅子丸。野球って、流れが大事なんだ。俺が出塁して、盗塁で進塁して、みんなで繋げていく。そこにお前の力が必要なんだ。確かに一発ホームランが出れば、試合は決まるかもしれない。でも、試合はそんな簡単なもんじゃないだろ?」


「は? じゃあ、お前が出塁して、他の奴に打たせればいいって言うのか? それじゃあいつまでたってもお前が目立たないじゃん! 俺の打撃が決まるから、みんなも楽になるんだよ」


獅子丸の言葉は熱を帯びてきた。彼にとって、ホームランこそが全てであり、勝利を決定づけるものだと信じて疑わなかった。それに対して、陸は何度も言ってきたように、野球には流れがあり、つなぐ野球こそが勝利に繋がるものだと考えていた。


「俺は、ただ一発で終わる野球は嫌だ。野球は積み重ねだって言ってるんだよ、獅子丸。お前が打つためには、俺みたいな奴が出塁して、チャンスを作らなきゃならないんだ」


「ふん、そんなの俺は関係ないね。俺はホームランで試合を決めたいんだ。お前が出塁して、盗塁して、バントしてっていう地味な野球が、どれだけチームを勝たせるかなんて、俺にはわからないよ」


その言葉に、陸は一気に怒りが込み上げてきた。


「じゃあ、お前は1回でもバントしてチャンスを作ったことがあるのかよ? それをしないで、ただ豪快に打つだけの打者が、どれだけチームに貢献してるんだ!」


二人の言い争いが激しさを増す中、周囲の練習しているチームメイトたちが不安げにこちらを見ていた。それでも、陸と獅子丸は互いに譲らず、声を荒げ続けた。


その後、二人はしばらく顔を合わせなかった。グラウンドでは、相変わらずともにプレーし続けたが、心の中ではお互いの考え方がすれ違い、すこしずつ距離が生まれていった。試合中でも、陸がヒットで出塁しても、獅子丸は黙ってバットを振り続け、ホームランを打つことに夢中だった。陸が盗塁を決めて次の塁を狙っても、獅子丸の目は次の一打に向けられたままだった。


「お前は、ほんとうにチームのことを考えているのか?」


ある日、試合後に陸はひとり、獅子丸に問いかけた。その声は力強くもあり、どこか疲れ切ったようにも感じられた。


「俺がチャンスを作ったら、なんでお前はそのチャンスをもっと活かそうとしないんだ?」


獅子丸は無言でその場を立ち去ろうとした。彼にはまだ、陸の言葉の意味が分からなかった。


「俺は、やっぱりお前が信じるような野球をしたい」


その一言が、二人の関係を深く変えていく予兆を感じさせた。しかし、同時にそれが彼らの間に新たな壁を築くことにもなる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ