第2幕: 高校1年生の春──紅白戦 2年生の壁④
このホームランをきっかけに、2年生チームは勢いを増し、2回までにヒットを連発。大量得点を奪い、一気に試合を支配した。
横浜桐生学院に進学してきた新入生は、中学時代、部活やシニア、ボーイズ、ポニーなど、さまざまなチームで全国大会に出場した実績を持つ逸材ばかりだ。
現に1年生チームの先発投手・菅原はシニア時代にチームを全国ベスト4に導いたエースであり、将来の1軍エース候補として期待されている。しかし、彼のこの試合の記録は――
2回10失点
恐らく、人生で最も大量失点を喫した試合だった。
10失点目が決まった瞬間、監督が動いた。
「やっぱり、奴じゃまだ2年生相手は厳しかったか……仕方ない。
1年生チーム、バッテリーともに交代だ。
井上、田中、入れ。出番だ」
菅原は肩を落としながらベンチへと戻る。その横を、ゆっくりと井上宏樹と田中智也が通り過ぎる。
「宏樹、ついに俺らの出番が回ってきたぜ。いっちょ、やったろうぜ!」
田中が意気揚々と声をかけるが、井上は無表情のまま呟いた。
「関係ない。俺はただ抑えるだけだ」
「相変わらず冷たいな~。よっしゃ、サインは昔と同じだ。先輩方を料理しようぜ!」
マウンドに上がる井上宏樹は、実は監督が最も期待を寄せる1年生投手だった。
中学時代の実績――万年1回戦敗退の弱小野球部を全国大会ベスト4へと導いた逸材。
しかし、彼の投球にはある特徴があった。
打席に立つ2年生打者は、井上の球を見て余裕を浮かべる。
(思ったより球が遅い。これなら長打を狙えるな)
初球、フルスイング。
ショートフライ。
打者は首をかしげながらバットを見つめる。
井上の直球は打てそうで打てない。回転数が多く、想像以上に沈まない。そのため、打者は無意識にポップフライを打ち上げてしまうのだった。
次の打者も負けじと初球フルスイング。
ゴンッ……!
バットの根元にボールが当たる鈍い音が響く。
ボテボテのサードゴロ。
井上の投じた球は、打者の手元で大きく曲がるシュート。それも直球と見分けがつかないシュートだ。
(まずい、フルスイングに惑わされた……)
1年生チームの三塁手が動けず、内野安打になりそうな当たりだった。
だが、その時――
風のように現れた千堂陸。
遊撃手の千堂が猛然と駆け寄り、素早くボールを処理すると、二塁へ送球。
「アウト!」
二塁ベースに入った高橋拓海がボールを受け取ると、そのまま一塁へ送球。
「ダブルプレー成立!」
わずか2球で、井上宏樹は2年生打線を沈黙させたのだった。




