第2幕: 高校1年生の春──紅白戦 2年生の壁②
石上が出塁し、2番の江原がバッターボックスに入る。江原は冷静にピッチャーを見つめ、状況を把握していた。
(ここで確実に流れを作るためにも、一つでも先の塁を狙うべきだ)
ベンチからのサインを確認した江原は、一瞬だけ石上に視線を送る。石上も軽く顎を引き、準備ができていることを示した。
エンドランのサインが出た。
ピッチャーがセットポジションに入り、石上がわずかにリードを広げる。静寂の中、バッテリーが次の球を決める時間が長く感じられた。
――そして、投球。
石上は迷うことなくスタートを切った。ピッチャーが足を上げた瞬間、全力で二塁へと向かう。
その動きを感じ取った江原は、ためらいなくスイングを開始する。
「カキンッ!」
打球は一二塁間を抜ける鋭いゴロ。内野手が飛びつくが、ボールはグラブの先をかすめ、ライト前へ転がった。
「いける!」
石上は迷いなく三塁へ向かう。ライトが素早く捕球し送球するが、石上のスタートが完璧だったため、余裕をもって三塁に滑り込んだ。
「ナイスラン!」
一塁に到達した江原が振り返ると、三塁ベース上で帽子を直す石上の姿があった。
無死一・三塁。2年生チームが確実に攻めの流れを作った。
ベンチからは歓声が上がり、試合の空気が一気に変わる。