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スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第3幕【第1章ː地獄の合宿編】
184/202

第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿3日目 結末➌

 9回裏、先頭は2番・加藤勇斗。

 3年生の中堅手の男だ。


 ベンチからは声が飛ぶ。

 「頼むぞ加藤!」

 「何としても塁に出ろ!」


 マウンド上の堂島隼人は、汗を拭うこともなくプレートを踏む。

 (……ここで出塁を許せば、藤原にランナーを背負った状態で回る。絶対に出すわけにはいかない)


 初球、152キロのストレート。

 加藤は迷わず振りにいき、ファール。


 2球目、3球目もファールで粘る。

 「ナイスファイトだ!」

 「食らいつけ!」

 ベンチの声が熱を増す。


 堂島も首を振らない。淡々と、次の球を繰り出す。

 外角ギリギリを突くカットボール、低めに沈むスプリット。

 加藤はバットを止め、カットし、再び止め――粘り続ける。


 5球、6球、7球……。

 スコアボードの球数表示が、じわりと増えていく。


 堂島の呼吸が荒くなる。

 (……粘るな。だが、崩されはしない)


 8球目、9球目もファール。

 スタンドの保護者たちですら息を詰め、球場は異様な静けさに包まれる。


 ――そして10球目。

 堂島は渾身のストレートをインコースに突き刺した。


 加藤、スイング。空を切る。

 「ストライクスリー!」


 10球粘った末の空振り三振。

 加藤は悔しさを滲ませながらも、堂々とベンチへ戻っていった。

 (藤原さんに繋ぐためなら……この粘りで十分だ)


 横浜桐生のベンチが声を張る。

 「ナイスファイトだ勇斗!」

 「よく粘った!」


 ――続くは3番、高田優斗。

 強打の三塁手。鋭い打球を飛ばすことにかけては、チームでも一、二を争う。


 堂島は息を整え、藤原の構えるミットを見据える。

 (……ここも封じる。藤原に回す前に、俺の支配を示す)


 初球、外角低めスプリット。高田は見逃し、ボール。

 2球目、カーブでタイミングを外す。見逃してストライク。


 カウント1-1。

 3球目――藤原のサインはストレート。外角高め。


 堂島の腕がしなり、白球が走る。

 高田は迷わず振り抜いた。


 ――快音。

 ライナーが三塁線を鋭く抜けるかと思われた。


 だが、ショートが横っ飛びで捕球!

 グラブに収め、しっかりと一塁へ送球する。


 アウト。


 ベンチからは「うおおっ!」と声が漏れた。

 惜しい当たりだった。それでも結果は凡退。


 高田は悔しげに唇を噛みながら、ベンチへ戻る。

 (……打ち損じじゃない。だが、堂島の壁は厚いな)


 ――二死走者なし。

 それでも横浜桐生学院の空気は沈まなかった。


 「いいぞ高田!」

 「最後は藤原さんだ!」


 球場の視線が一斉にベンチ奥に注がれる。

 バットを握りしめ、無言で立ち上がった男――藤原守。


 9回裏、二死走者なし。

 最後の舞台が、ついに整った。

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