第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿3日目 結末➊
スコアは1-1。
最終回、9回裏。
堂島隼人は、疲労で重くなった足を一歩ずつ運び、マウンドに立った。
額から流れる汗は止まらず、ユニフォームの背中は濃く濡れている。
(……肩も肘も限界に近い。だが、ここで折れるわけにはいかない)
8回は乱れが出た。
制球が甘くなり、走者を背負った。それでも最後は気迫で押し切り、ベンチへ帰ったときに見えた仲間たちの安堵の顔が脳裏に焼きついている。
堂島はグラブを口元に当て、深く息を吐いた。
そして、ふと視線を上げる。
ベンチ。
そこに腰掛ける捕手・藤原守の姿を見つけた。
相手の仲間たちと笑みを交わすこともなく、じっとグラウンドを睨むその目は鋭い。
堂島の心に、冷たい炎が宿る。
(……9回裏。最後にお前が来る)
普段の堂島なら、打者を「抑える対象」としか見ない。感情に流されることなく、配球と間で封じる。
だが――藤原だけは違った。
(最後に、お前を絶対に抑える。たとえ体が砕けても……それだけは譲らない)
わずかに目の奥が熱を帯びる。普段の冷静さからは想像もつかないほどの執念が、藤原にだけは向けられていた。
堂島はプレートに足をかける。
土を踏みしめた音が、球場の静けさに響く。
疲労で軋む右腕を掲げながらも、その心は鋭く澄んでいた。
――9回裏、最後の攻防が始まろうとしていた。
そしてその先には、宿命のライバル・藤原守との決着が待っている。