第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿3日目 結末(2)⑤
伊達剛志がレフト前にしぶとく運び、一死一塁。
ベンチに重苦しかった空気がわずかに揺れ動く。
「よし、ここからだ!」
「今村、頼んだぞ!」
――5番、今村聖人。
荒々しい気性とフルスイングが売りのプルヒッター。
その存在感は、チームの勢いを象徴する爆発力を秘めていた。
マウンドの岡田翔は、呼吸を整えながら藤原のミットを見据える。
(伊達にヒットを許した直後……力任せに引っ張りに来る今村を、どう料理するかだ)
藤原は一拍置き、静かにサインを送る。
(豪快なプルヒッター……なら狙いは内寄りだ。思い切り引っ張らせてゴロを打たせる。6-4-3、併殺を狙う!)
岡田が大きく振りかぶる。
白球が力強くミットへと走る。
今村は迷わなかった。
(狙いは直球だ! 流れにのって、叩き込んでやる!)
フルスイング――荒々しい豪快さが炸裂する。
だが、白球は少しだけ内へ食い込み、タイミングを外された。
「……ッ!」
打球は快音を裏切り、鋭いゴロとなってショート正面へ。
ショートが素早く二塁へ送球。
セカンドがベースを踏み、一塁へ。
――6-4-3、併殺完成!
「アウト! チェンジ!」
球審のコールが響く。
大阪大和のベンチは、一瞬声を上げかけて、そのまま沈黙に飲まれた。
一塁ベースに駆け込んだ今村は、ヘルメットを振り落としそうな勢いで悔しげに顔を歪める。
(くそっ……打ち損じだと!? 俺が……俺が4番の後ろで併殺なんて!)
獅子丸がベンチからその姿を見つめ、ほんのわずかに唇を噛む。
互いにぶつかり合う仲間だからこそ、今村の悔しさが痛いほど伝わった。
横浜桐生のベンチは一気に沸き立つ。
「ナイスボール翔!」
「最高や、これで流れはうちのもんや!」
――9回表、最後のチャンスを併殺で断たれた大阪大和。
スコアは動かず、1-1。
試合はついに、9回裏の横浜桐生学院の攻撃へと移っていく。