第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿3日目 結末(2)②
藤原のミットが、外角低めに沈んだ。
岡田翔は小さく頷き、右手の指先で縫い目を強く握る。
(これでいい。伊達の力みを利用するんだ……!)
スパイクがマウンドを踏みしめる音が乾いた土に響く。
岡田の全身がしなり、白球が放たれた。
――外角低め、速球。
伊達の目が見開かれる。
(やっぱり直球……! しかも低めだと!? 上等だッ!)
左足が大きく踏み込む。
腰が一気に回転し、バットが全身の力を纏って唸りを上げた。
4番のプライド、プロ注目の意地、そのすべてを込めたフルスイング。
カァンッ――!!
打球は勢いよく飛んだ……しかしわずかに詰まり、角度を失った。
鋭い音とともに、一塁側スタンドへと高々と舞い上がり、ベンチの頭上を越えてスタンドの空席に突き刺さる。
――ファール。
審判の冷静なコールが響く。
伊達は大きく息を吐き、バットを握り直した。
手のひらに痺れが残っている。だが悔しさはなかった。
(打てる……打てるはずだ。今のスイングは間違ってない。次は絶対に仕留める!)
岡田は深く息を吐き、マウンドで表情を崩さずに構えを整える。
(全力で来るなら歓迎だ……その力ごと、俺の直球で押し返してやる!)
球場に再び緊張が走る。
――9回表、一死。
4番・伊達剛志、プライドを懸けた勝負が続いていく。