第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿3日目 結末(2)①
天童獅子丸が全力で振り抜き、空を切って三振に倒れた。
大阪大和学園ベンチに重苦しい空気が広がる。先頭打者が倒れた意味は大きい。
しかし、すぐに次の打者の名前がコールされた。
――「4番・ファースト、伊達剛志」
その瞬間、球場の空気が再び張り詰める。
伊達はゆっくりと立ち上がった。
金属バットを肩に担ぎ、ベンチ前で一度大きく息を吐く。
(……また抑え込まれている。この俺が、何度も凡退だと?)
全国屈指の長距離砲。プロのスカウトが視線を送る存在。
それが、この試合では一度も快音を響かせられていない。
プライドを抉られるような感覚が、胸の奥で燻っていた。
ベンチに沈む仲間の視線も、スタンドのまばらな観客の視線も、すべてが自分に突き刺さる。
(獅子丸が倒れた。なら次は俺が打たなきゃいけないだろ……!)
悔しさが込み上げる。だが同時に、スラッガーとしての血が熱を帯びる。
自分が打席に立つだけで空気が変わる――そう信じてきた。
(プロに注目される4番が、ここで黙って帰れるかよ。絶対に打つ……絶対に!)
スパイクが土を踏む音が、やけに大きく響く。
ゆっくりとバッターボックスへ歩を進めるその背中は、怒りと誇りを背負った獣のようだった。
マウンドの岡田翔は、その姿をじっと見つめていた。
先ほどの雄叫びの余韻を胸に残しながら、次なる獲物に全神経を研ぎ澄ませている。
――9回表、一死。
打席には、大阪大和学園の4番・伊達剛志。
プロ注目の大砲が、悔しさと誇りを胸に、静かにバットを構えた。