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スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第3幕【第1章ː地獄の合宿編】
172/202

第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿3日目 結末⑪

 藤原のミットが胸元へと上がった。

 その瞬間、天童獅子丸の瞳が鋭く光る。


 (やっぱり……来る! 胸元だ!)


 読みは当たった。直球を二度見せられ、外でファールを打たされた。次に来るのは内角、しかも高め。獅子丸は一瞬のうちにそう確信していた。


 岡田翔の腕が唸りを上げる。

 全身の力を込めて振り抜かれた右腕から、白球が矢のように放たれた。

 一直線に、打者の胸元を抉るコース。


 「来た!」


 踏み込んだ足が土を強く蹴り、バットが一気に走る。

 だが――白球は予想よりもさらに内へ、さらに高く。ほんのわずかにボールゾーンへ外れていた。


 (高い! でも振る!)


 止まれない。止める選択肢はなかった。

 獅子丸のフルスイングは、ほとんど反射の産物だった。


 カァンッ!!


 乾いた金属音。

 だが、快音ではない。芯を外した打球は押し潰されたように詰まり、鋭い角度で三塁側ベンチの上空へ舞い上がった。


 白球は高々と上がり、スタンドに吸い込まれることなく、くるくると回転しながら無人のシートに落ちた。


 ――ファール。


 審判の冷静なコールが響く。


 天童はバットを振り抜いた姿勢のまま、ほんのわずかに歯を食いしばった。

 (仕留めたかった……読んでいたのに、打ち損じた)


 胸の鼓動が速くなる。悔しさよりも、次の球への欲が勝っていた。

 (直球を捕らえられる感覚はある。あと一歩だ……!)


 捕手の藤原はミットを下げながら、心の中で静かに頷いた。

 (狙ってきたな……だが詰まらせた。想定通りだ。これで奴の意識は完全に直球に釘付けになった)


 マウンドの岡田は、肩で荒い息をしながらも、ほんのわずかに表情を緩めた。

 (胸元を読んで打ちに来ても、結局はファール……いいぞ。この勝負、最後まで直球で押し切る)


 ――カウントは2ストライク。

 球場の空気はさらに張り詰め、まばらな観客でさえ息を飲んで次の一球を待っていた。

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