第2幕: 高校1年生の春──紅白戦開始⑩
「くそっ……!」
佐藤悠真が三振に倒れ、悔しげにバットを叩きつける中、次の打者がゆっくりと打席へ向かった。
三番・高橋拓海。
守備では安定したプレーを見せる彼だが、打席では派手さこそないものの、確実性の高いバッティングが持ち味という選手だ。
「頼むぞ、高橋!」
「1本頼むぞ!!」
1年生ベンチから声が飛ぶ。千堂も三塁からじっと高橋を見つめていた。
(なんとしてもここで一本出して、千堂をホームに返したい……!)
バットを肩に担ぎながら、冷静に石上の投球を見極める構えを取る。
――初球。
石上が投じたのは、低めのストレート。
高橋は慎重に見送り、ストライク。
カウント1ストライク。
「……フン」
石上はマウンド上で鼻を鳴らし、ゆっくりとボールを握り直す。
(慎重なバッターか。でも――)
次の瞬間、石上の投球フォームがわずかに変化した。
――二球目、インコースへ鋭く食い込むシュート!
「ぐっ……!」
咄嗟に体を引きながらも、バットを出しかけてしまい、ボールは詰まった当たりでファウル。
カウント2ストライク。
(やられた……今のは振らされる球だった)
高橋は小さく息をつき、冷静に次の球に備える。しかし――
「……行くぞ」
石上がセットポジションに入り、捕手の江原がサインを出す。
三球目、スクリュー。
外角低めへ沈む変化球。高橋の目にはストレートの軌道に見えた。
(……打てる!)
確信を持って振り抜く――だが、ボールは手元でスッと沈み、バットは空を切る。
「ストライク、バッターアウト!」
高橋は悔しそうに肩を落としながらベンチへと戻る。