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スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第3幕【第1章ː地獄の合宿編】
152/198

第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿3日目・怪物との対決再び①

3回表――――


一番、二番打者を打ち取り、2アウト走者なし。


 再び対峙する、天童獅子丸と岡田翔。


 先の打席――初球を完璧に仕留められ、レフトスタンドへ突き刺さったあの一発が、岡田の中で燻り続けていた。


 (次は――


真っ向からぶつかる)


 キャッチャーの藤原が構えたのは、ど真ん中。


 頷いた岡田の目に、一片の迷いもない。

 ――勝負を挑む、ただそれだけの目。


 藤原が低く囁く。


 「翔、行け。全部、真っ直ぐだ」


 初球――。


 打者の懐をえぐるような真芯のストレート。

 ミットに叩きつけられた瞬間、スタンドからどよめきが起きた。


 ――149km/h。


 「は、速っ……!」


 ベンチの仲間たちが声を漏らす中、

 獅子丸は、一歩も動かず、それを見送っていた。


 ただ、じっと立ったまま、何かを感じていた。

 先ほどのような迷いなき一振りは、まだ生まれてこない。


 二球目。


 同じ構え、同じフォーム――

 だが、明らかに違うものがそこにはあった。


 放たれたストレートは、まるで火をまとっているかのように鋭く、伸びていく。


 ――150km/h。


 天童のバットがわずかに動いた。だが空を切る。


 振り遅れ――ではない。見えなかった。


 (何だ、この球……)


 静かな顔の裏で、獅子丸の思考がざわついていた。

 “自分が今まで知っていた世界”と、少しだけズレている。

 そんな違和感。


 (たった一打で、相手を変えちまった……?)


 それが、初めての“恐れ”に近い感情だった。


 三球目――。


 岡田の瞳が静かに燃える。

 勝ちたいのではない。打たれたまま終われない。それだけだ。


 その思いが、全ての迷いを振り切らせる。

 振りかぶる。左足を強く踏み込む。全身のバネを解放する。


 ズドン!!!


 ミットが悲鳴を上げる。


 ――151km/h。


 獅子丸のバットが空を切った。


 スイングは速かった。鋭かった。

 だが、“一瞬”が足りなかった。


 三球三振。


 岡田翔、完全なるリベンジ。


 グラウンドの空気が一変する。

 横浜桐生学院ベンチが湧き、藤原が思わずグラブを叩いて叫ぶ。


 「ナイスボール、翔ッ!!」


 しかし、その中で――天童獅子丸だけは、静かにバットを肩に乗せ、ゆっくりとベンチへ戻っていた。


 (……負けた)


 打ち取られた悔しさよりも、むしろ初めて“自分の届かない場所”を見たような気がしていた。


 (でも、これでいい)


 ベンチに戻るその歩みに、いつもと違う、わずかな緊張が宿っていた。


 “俺は、ここで止まらない。”


 その芽は、小さく芽吹き始めていた。

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