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スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第3幕【第1章ː地獄の合宿編】
150/198

第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿3日目・頼れる精神的柱 藤原 守という男③

バックスクリーンへと吸い込まれた白球の余韻が、まだ球場の空に残っている。


 藤原守は、いつものように淡々とベースを回る。


 一塁、二塁、三塁――そしてホーム。


 戻ってくるその姿に、横浜桐生学院ベンチの誰もが、一瞬息を呑んだ。


 だが、ホームを踏んだその瞬間――


 「っっっしゃぁあああああ!!!」


 チームが一気に爆発した。


 「マジかよ藤原さん!!」「打ったぞ! バックスクリーンだぞ!?」「今の真芯……完璧だった!!」


 ベンチ最前列に並んでいたメンバーたちが、次々と藤原に駆け寄る。

 腕を伸ばし、肩を叩き、何度も手のひらをぶつけ合う。

 その勢いに、藤原はわずかにバランスを崩しそうになるほどだった。


 「やっばいってマジで!」「今の150超えてたよな!? あの堂島からだぞ!」


 大声で叫ぶ者、信じられないと何度も繰り返す者、涙目で笑う者までいた。


 しかし――


 その中心にいる藤原だけが、まるで別の空気にいた。


 バットをラックに戻しながら、ただ静かに息を吐く。


 「……ちょっと高かったな、ストレート」


 その一言に、周囲がまたざわついた。


 「え、それだけ!?」「え、冷静すぎない?」「今の、事故じゃないんだ……」


 チームメイトの驚きは、藤原の“本物の自信”に触れた瞬間だった。


 「たまたまじゃなくて、“分かってて打った”ってことかよ……」


 言葉に出した誰かの声に、皆が無言で頷く。


 ――“すげぇ”の中に、尊敬と信頼が宿りはじめていた。


 それは、4番としての重み。

 試合の流れを引き戻す「一撃」を放つ者にだけ許される景色だった。


 藤原は最後に、ベンチ奥のスコアボードを一瞥し、言った。


 「まだ1点差。次の回、絶対守り切るぞ」


 その瞬間、ベンチの空気がキリリと引き締まる。


 さっきまで大騒ぎしていた選手たちが、すっと座り直し、帽子のつばに手を添える。


 ――たった一言で空気を変える。


 それが、藤原守という男の“本当の力”だった。

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