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スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第2幕: 高校1年生の春
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第2幕: 高校1年生の春──紅白戦開始⑨

千堂の盗塁によって1年生チームのムードが一変した。だが、2年生左腕・石上直人はすぐに冷静さを取り戻し、次の打者に対して内角攻めを徹底する。


「調子に乗るなよ」


そう言わんばかりに、石上は再び千堂を牽制。しかし、千堂はまるで楽しんでいるかのようにニヤリと笑い、さらに大きくリードを取る。


(そっちがその気なら…)


石上はセットポジションに入り、わずかにモーションを遅らせる。千堂がスタートを切る一瞬のタイミングをズラし、意表を突こうとする作戦だ。しかし――


「行った!」


まるで見抜いていたかのように、千堂が三塁へ突進!石上はクイックモーションを使わずに投げる判断をしてタイミングをずらしたが、千堂の一歩目の速さと判断はそれを上回った。捕手・江原の送球がそれてもいないのに、間一髪――


「セーフ!」


二塁から三塁へ、一瞬で駆け抜けた千堂。その姿に、ベンチの1年生たちが歓声を上げる。流れは完全に1年生チームへ傾いたかに見えた。


しかし、石上は違った。唇を噛みながら、静かにボールを握り直す。


(…流れは渡さない)


千堂は再び口角を上げ、マウンドを見据えた。その視線は、マウンド上の石上直人を挑発するかのようだった。


その態度に、石上の目がわずかに鋭くなる。しかし、すぐに冷静な表情へと戻ると、静かにボールを握り直した。


 「クソッ……だが、まだだ。流れは渡さない」


 石上は次の打者、佐藤 悠真へ意識を向けた。千堂の勢いを止めるためには、ここで走者を返させるわけにはいかない。ベンチの空気が昂る中、石上はセットポジションに入り、ゆっくりと息を整えた。


カウント1ボール。


 打席には、プレッシャーを感じながらも必死にバットを握る佐藤 悠真。千堂の一連のプレーで流れが1年生に傾いた今、この場面を締めなければならない。


 石上は初球、内角低めへ鋭く曲がるスクリューを投げ込んだ。バッターのバットが空を切る。


 「ストライク!」


 1ストライク1ボール。


 (狙い通り……だが、まだ足りない)


 次は外角いっぱいにストレートを投じる。バッターは手を出せない。カウントは追い込んだ、ツーストライク1ボール。


 1年生ベンチから声が飛ぶ。


 「食らいつけ! 簡単に三振するな!」


 その言葉に、佐藤 悠真の表情が強張る。しかし、石上はそれすらも冷静に見つめていた。


 (焦るな。今こそ、決める)


 キャッチャー・江原が小さく構えを変える。要求したのは、決め球のスクリュー。



 (これで終わりだ)


 石上が投じた瞬間、ボールはストレートの軌道からスッと落ちる。バッターは必死に食らいつこうとするが、手元で沈む変化に反応できず、無情にもバットは空を切った。


 「ストライク! バッターアウト!」


 三振。


 ボールがストレートの軌道を描きながら、打者の手元で鋭く落ちる――佐藤のバットが空を切った。


 捕手・江原が素早く立ち上がり、ボールを三塁方向へ送りながら、低くガッツポーズを作る。


 「よっしゃああ!!!」


 その声と同時に、石上も拳を握りしめ、雄たけびを上げた。


 千堂の圧倒的な走力に翻弄されながらも、最後の最後で意地を見せた石上直人。1年生チームの勢いを完全に断ち切ることはできなかったが、それでも試合の流れを渡し切らない、その執念を見せつけた。


 マウンド上で息を整えながら、石上は三塁に立つ千堂を一瞥した。


 「……調子に乗るなよ」


 だが、その言葉を聞いた千堂は、逆に愉快そうに口元を歪めた。


 「ははっ、やっぱり簡単にはいかないか」


 試合はまだ序盤。

 流れは、どちらの手にも転がる可能性を秘めていた。

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