第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿3日目・頼れる精神的柱 藤原 守という男
横浜桐生学院の1回裏の攻撃。
マウンドには、大阪大和学園のエース・堂島隼人。
静かに、淡々と、そして圧倒的に。
堂島はその立ち上がりから、まるで“打者を分析する機械”のようだった。
一人目、二人目――
アウトローへ切れ込むカットボールと、高低差の大きなスプリットで空振り三振。
三人目には初球からストレートを立て続けに投げ込み、最後は膝元へ沈むカーブで見逃し三振。
ベンチに戻ってきた堂島の顔色は変わらない。
「当然のように0を並べる」。それがこの男の投球スタイルだった。
――2回表。
大阪大和学園の攻撃は、7番・レイ・ヤマモトから始まった。
マウンドに立つ岡田の目は、先ほどとは違っていた。
打たれた一発。揺らいだリズム。
だが今の彼には、それすらも燃料に変わっていた。
(負けるもんか……)
短く息を吐き、構え直す。
捕手・藤原のミットが示すのは、内角低め。
――ストレート。147km/h。
“打ってみろ”。そんな気迫が込められた球だった。
ヤマモトはフルスイングで応じたが、球威に押されて空を切る。
二球目も同じコースに投げ込み、反応を遅らせた後、
三球目、膝元へ落ちるスプリットで三振に仕留めた。
(よし――一人)
岡田の中で、炎のような集中が研ぎ澄まされていく。
8番・岸本。3年生の経験者だが、気圧されたのか初球からバットが出た。
ボールは内角高めのストレート――空振り。
二球目、外角ギリギリに沈むカーブでタイミングを外し、
最後はアウトローに決まるストレート。見逃し三振。
そして9番・堂島隼人。エース同士の直接対決。
岡田は変化球での揺さぶりも考えたが――藤原が、真ん中にミットを構えた。
(……わかったよ、真っ向勝負だ)
唇を引き結び、岡田はストレート一本で勝負をかける。
初球――インハイ。ファウル。
二球目――アウトロー。ギリギリを突いて空振り。
そして三球目――内角低めいっぱいのストレート。
堂島が見送ったその球は、完璧なコースに吸い込まれていた。
――ストライクスリー。
三者三振。
岡田翔、意地の回。
ベンチへ戻るその背中に、もう迷いはなかった。
燃えるのは悔しさでも、プレッシャーでもない。
“この試合に勝ちたい”――ただ、それだけだった。