第2幕: 高校1年生の春──紅白戦開始⑦
千堂陸の盗塁成功をきっかけに、1年生チームの雰囲気が変わった。
それまで緊張で体が硬くなっていた選手たちが、わずかに肩の力を抜き始める。試合開始直後、先輩たちの圧に気圧され気味だった1年生たちだったが、千堂が示した「やれる」という姿勢が、仲間の心を揺さぶった。
ベンチでは、松岡 竜之介 が興奮気味に千堂のプレーを振り返っていた。
「スゲェな陸! あの牽制にもビビらねえし、スピードもエグいし!」
隣で見ていた井上 宏樹は冷静に分析する。
「千堂くんのスタートの切り方が絶妙だった。石上先輩の動きを完全に読んでたな。」
「それに、あの初球で行く判断。普通なら、いったん様子見しそうなのに。」
高橋 拓海も感心したように呟く。
ベンチ内の士気が上がる中、打席には次の打者・佐藤 悠真が立っていた。
千堂の盗塁を成功させたことで、1年生チームには新たな流れが生まれつつあった。
二塁上の千堂は、ベンチの様子をチラリと見やると、再び前を向いた。
(この流れをもっと加速させる。まだ、ここからだ。)
マウンド上の石上直人は、千堂の存在を強く意識しながらセットポジションに入る。
彼のクールな表情の裏には、次なる策を練る思考が渦巻いていた。