表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第3幕【第1章ː地獄の合宿編】
127/202

第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿2日目・ダブルヘッダー編⑦

 二塁ベース上。千堂陸はスライディングの体勢から立ち上がり、ユニフォームについた土を払った。ヘルメット越しに見える瞳は、冷静さを保ったまま炎を灯している。


 打席には2番・森口颯太。バットを肩に預けた構えから、ふたたび静かに立ち直した。

 (次は、俺の番だ)


 試合前から千堂との間で交わしていた言葉は少ない。だが、役割は明確だった。

 ――千堂が出たら、必ず進める。点に繋げる。


 三好はわずかに表情を曇らせていた。初回の先頭にヒットを許し、さらに盗塁を決められた。焦っている――そう見て取れる。

 八坂は冷静にミットを構え、外角へのスライダーで立て直そうとした。


 (それを、使ってくるなら……)


 1ボール1ストライクからの3球目。森口はスライダーを待っていた。


 「来い……」


 ヒザ下に滑り込む球を、森口は体の軸を保ったまま、バットを残して引っかける。


 バットの先に当たった打球は、ふわりと浮かんだ。


 セカンド後方――前進守備の隙を突く、絶妙な落とし球。


 「落ちる!」


 セカンドとライトの間にぽっかりと空いた芝生に、白球が吸い込まれた。

 千堂がスタートを切る。打球を見て迷うことなく三塁ベースを蹴り、そのままホームへ一直線。


 成光の外野が懸命に処理するが、森口の走塁は鋭く、千堂の足も止まらない。


 「ホーム突っ込むぞーッ!」


 サードコーチャーの叫びに背中を押され、千堂は左足からホームに飛び込んだ。

 クロスプレー――かと思われたが、八坂のミットがわずかに浮いた。


 「セーフ!」


 球審の声が響いた瞬間、千堂の拳が土を叩いた。


 森口は一塁ベース上で息を整えながら、静かに視線をホームに送る。

 千堂と目が合った。

 何も言わない。だが、わずかに頷いた。


 (繋いだぞ)


 それは、声なき確認だった。

 1−0。初回、千堂陸の出塁と盗塁、そして森口颯太のしぶとい一打によって、横浜桐生学院は先制に成功する。


 ――地味な点かもしれない。華やかさはない。

 だが、「勝つための野球」が、そこには確かにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ