第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿2日目・ダブルヘッダー編③
2回表。マウンド上の柿沼は、初回に浴びた猛攻の余韻を引きずったまま、うつむき気味にキャッチャーのサインを覗き込んでいた。
バッターボックスには、この回の先頭打者――4番・藤原守が立つ。
初回に放った特大のツーラン。その打球音と軌道はいまだにスタンドに残響のように響いていた。
だが藤原自身は、そんな過去の一打など一切気にしていないようにいつものルーティンを意識して、淡々と打席に入る。
初球。外角高めのストレート。打ち気を逸らすつもりの配球。
――だが、藤原は逆にその甘さを見逃さなかった。
「カキィィィン!」
乾いた打球音とともに、白球が右中間へ高く舞い上がる。
打った瞬間、それとわかる完璧な放物線。右中間スタンドへ突き刺さる、2打席連続のアーチ。
スタンドがどよめき、ベンチが沸き返る。藤原は表情ひとつ変えずにホームを踏むと、静かにヘルメットを脱ぎ、次の打者へ目を向けた。
スコアは8-0。
続く5番――藤城慎也がバッターボックスへ向かう。
強肩強打のライト兼投手。だが彼は、藤原の打球をただ眺めていたわけではない。
(今の球、浮いてた。なら、次もある)
藤城は初球から狙いを定めていた。
インコース。やや高め。迷いなく振り抜いた。
「打ったァ――! 大きい、左中間!」
打球はぐんぐん伸びていく。レフトとセンターが交差する位置まで追ったが、その視線の先で、白球はスタンド中段へ飛び込んだ。
2者連続のソロホームラン。藤城は小さく拳を握ると、ベースをひとつひとつ確かめるように回っていった。
ホームに戻ると、待っていた藤原と軽くグータッチを交わす。言葉は交わさずとも、その拳にこもった手応えは同じだった。
スコアは9-0。
これが横浜桐生学院の4番と5番。全国を狙うチームの「中軸の本気」が、ここにあった。