第2幕: 高校1年生の春──紅白戦開始⑥
1年生の空気が変わった様子を
千堂陸が見事に盗塁を決めた瞬間、監督は軽くうなずき、心の中でその成長を実感していた。
「…やっぱり、あいつは流れを作るのが上手いな。」
監督の目線は、千堂が二塁に立ち、次の塁に意識を集中させる様子を追っていた。
盗塁成功の裏には、冷静な分析と石上との駆け引きがあったことに気づく。
監督は少し唇をかみながら、心の中で思った。「陸のスピード、そしてタイミングの取り方。確かに、それは一度や二度の練習で身に付けたものじゃない。」
横で見守っていたコーチが、感心したように言った。「本当に巧いですね。石上の牽制にも動じず、江原のリードにもビビらず、見事にタイミングを合わせて初球で盗塁を決めました。あのプレーで1年生たちのムードも変わった気がします。」
監督はしばらく無言でその場面を見つめ、ひと呼吸おいた後、静かに言った。
「あいつがいれば、試合の流れを変えられる気がする。もっとチームを活かせるかもしれないな。」
その言葉には、千堂陸のプレーがチームにもたらす影響への期待が込められていた。




