表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第3幕【第1章ː地獄の合宿編】
115/198

第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿1日目・個別練習(加藤&佐藤編⑤)

「よし、次はバントだ。ティーとマット、準備しよう」


加藤勇斗のその一言に、佐藤悠真は少し驚いた顔をした。

思わず、口が勝手に動いていた。


「えっ……加藤先輩って、バントするんですか?」


加藤は動きを止めて、ふっと笑った。

その笑みは、どこか照れたようで、それでいて誇らしげでもあった。


「まあ、するイメージないよな。

俺、チームじゃ5番で中距離ヒッターだし、“バントする打順じゃない”ってよく言われるよ」


佐藤は素直にうなずいた。実際、試合での加藤の打撃は力強く、打球はいつも外野を鋭く抜けていく印象しかない。


「でもな、試合って“狙い通りに進まない”もんなんだよ。

ランナーが一塁にいて、どうしても一点が欲しい場面。

相手が格上で、打たせてもらえそうにないとき――

そんなとき、俺は迷わずバントを選ぶ。

それが“勝つ”ってことだと思ってるからな」


加藤の声には、一切の冗談がなかった。


「……それに、たまにやるからこそ、効くんだよ。5番のバントってのは。

相手が“絶対ない”って思ってるところに落とすのが一番面白い」


そう言って、彼は軽くマットを踏みしめ、バットを逆手に構えた。


「よし。セーフティ、やってみよう。

まずはボールを殺す感覚。スピードのあるピッチャーでも“止める”ことを意識するんだ」


佐藤は無言でうなずき、前傾姿勢を取った。


マシンから放たれるボールを、ふわりとバットで吸収するように捉える。

“トン”と音を立てて、球は手前にポトリと落ちた。


「ナイス。いい角度だ。

でもそのままだと内野に詰められるから、バットの出し方をもう少し遅く。

構えは見せずに、**一瞬で出す。**それが“狙ってる”ってバレないコツ」


加藤は実際に構えずにバントの素振りをしてみせる。

その動作は滑らかで、まるで普通のスイングの延長のようだった。


「これも技術の一つ。バントは“逃げ”じゃなくて、“仕掛け”だ」


その言葉に、佐藤は少しだけ見方を変えたような表情を浮かべた。

5番打者でもバントをする。いや、“5番打者だからこそ”やるバントがある。

その意味を、今ようやく理解しはじめていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ