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スラッガーにはなれないけど  作者: 世志軒
第1部 第3幕【第1章ː地獄の合宿編】
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第3幕【第1章ː地獄の合宿編】合宿1日目・個別練習(加藤&佐藤編④)

午後の空気が少し和らぎはじめた頃、グラウンド横のベンチエリア。

佐藤悠真は、加藤勇斗とともに小さな折りたたみテーブルの前にいた。

そこには、色とりどりの数字入りボールと、細長いLEDペンライトが置かれている。


「これは“目のウォーミングアップ”だ」

加藤が手に取ったペンライトのスイッチを入れると、鋭い光が左右に動き出した。


「動体視力は、筋トレと一緒で鍛えられる。

まずはこの光を、目だけで追ってみろ。顔は動かさずに、な」


佐藤は椅子に腰かけ、目線を一点に集中させる。

左右に細かく揺れる光――最初は追えていたが、速度が上がると途端に視界がぼやけた。


「……結構、速いですね……」


「そう。しかもバッターは、“揺れるボール”を0.3秒で見抜かなきゃいけない。

そのための準備だ。ちゃんとできれば、球の出どころも、回転も、全部はっきり見えるようになる」


続いて、加藤がカゴの中からボールを1つ取り出した。


白地に黒い数字が大きく書かれた“ナンバーボール”。


「今度はこれをトスする。

振らなくていい、数字を言え。見えなきゃ打てない。

見る、感じる、判断する――全部は“目”から始まるんだよ」


加藤がふわりと軽く放った1球。


佐藤は一瞬、数字を読み取り損ねた。


「……わかんないっす」


「じゃあ球速上がったら、もっと無理だな。

よし、もう1球」


2球目。今度は目の焦点を手元からボールへ、滑らかに移す意識を持って――


「……“7”!」


「正解」


短く、しかし満足そうに加藤が言った。


以後、10球。

数字の読み取り精度は上がり、最後には「2」「4」「6」と瞬時に声が出るようになっていた。


「……この視線の追い方、打席でも使えますか?」


佐藤が問いかけると、加藤は頷く。


「当たり前だ。

お前、たぶん今までは“球を見る”んじゃなくて、“球を追ってた”。

でも今日からは、“球を読む”ことができる」


その言葉に、佐藤は少しだけ自信を取り戻したように笑った。

ただ振るだけじゃない――目を使って、考えて、打つ。

それが“本当のバッター”になるための第一歩なのだと、彼の中に静かに刻まれていった。



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