第2幕: 高校1年生の春──紅白戦開始④
1回表
紅白戦が始まり、先攻チームの一番打者・千堂陸がバッターボックスへ向かう。
(技巧派の石上先輩か…面白そうだ)
対する石上直人は、冷静な表情でサインを確認すると、ゆったりとしたモーションから初球を投じた。
――アウトローのストレート、ストライク!
「(まずは様子見…か)」
石上は続けて2球目、得意のスクリューを外角へ沈める。
陸はボールと判断し見送り、カウント1-1。
3球目――
今度はインコース高めへのストレート!
千堂は反応するも、バットを止める。
審判のコールは「ストライク!」
カウント1-2と追い込まれる。
しかし、ここからが千堂の真骨頂だった。
4球目――低めのスライダー。
千堂はコンパクトにバットを出し、ファウル。
5球目――再びスクリュー!
落ちる球に食らいつき、これもファウル。
「(簡単には三振しないぞ)」
石上は小さく息を吐く。(しぶといな…)
6球目――ストレート、アウトロー。
ファウル!
7球目――カーブ、低め。
「ボール!」
カウントは2-2。石上の表情が少し険しくなる。
8球目――再びスクリュー。
千堂はまたしてもファウルで粘る。
そして9球目。
「(そろそろ焦れてくる頃だ)」
石上は内角を攻めようとするが、微妙に抜けてしまう。
「ボール、フォア!」
審判のコールが響く。
「よしっ!」
陸は一塁へ駆け出し、ベンチからも拍手が起こる。
先頭打者としての役割を果たし、出塁に成功した。
石上は帽子のつばに手をかけ、苦笑しながら千堂を見送る。
(粘られたな…さすが、しぶとい)




