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第7話 編入試験開始


(三人称視点)


 ガリウス・ガーランドは生粋(きっすい)の実力者である。

 騎士としての現役からは退いたが、その実力に未だ陰りはない。

 彼が現役から退いたのは、自分の為ではなく、後進の為に剣を磨くことこそが王国の将来に繋がると確信したからである。


 編入生の試験官を買って出たのも、そうした使命感に駆られてのことだった。

 試験前日になぜか同僚のベクターが試験官の交代を申し出たが、断った。



(わざわざこの学園に、編入生として入ろうとする奴だ。余程の変わり者か、あるいは相当の実力者か。俺が直々に見定めなければ)



 編入試験は通常の入学試験より遥かに厳しい。途中から入学したとしても、その先の授業に追いつけなければ意味がないからだ。

 つまり普通の入学生と同等か、それ以上の実力を身につけている必要があるのだが、そんな編入生はそう現れない。

 編入試験の合格率は、五パーセントを下回る。


 そしてガリウスは、受験者が平民だからといって油断も容赦もする気はなかった。

 今の学園の状況(・・・・・・・)はさておき、身分にかかわらず公正に扱うべきだというのがガリウスの信条だからだ。



(仮に採点を甘くして合格させたとしても、受験者にとってはそちらの方が過酷な結末になるかもしれんからな)



 そしてガリウスは受験生、ティグル・アーネストと立ち合った。

 年の割には鍛え上げられている、というのが初見の感想だった。

 あとは剣の実力が備わっていれば、合格を与えても問題はないだろうと。




 そう考えていた。

 彼と実際に剣を合わせるまでは。



(甘かった……浅はかだった! 剣を合わせなければ気付かなかったとは!!)



 そして編入試験が始まり、剣を合わせたガリウスは深く後悔していた。

 まだたった一合(いちごう)。剣と剣を正面から打ち合ったばかりだ。

 にもかかわらず、初撃でガリウスの右腕は大きなダメージを受けていた。



(俺の剣を弾き飛ばさず、衝撃だけを(・・・・・)腕に流された(・・・・・・)!)



 普通、剣と剣が打ち合えば、力負けした方が弾かれる。

 すると大きな隙を見せることになるので、弾かれないように角度を変えたり、力に緩急を変えたりと工夫を凝らすのだ。ガリウスも無論、そうした技術は体得している。

 だが目の前の少年は赤子の手を捻るかのように、剣を弾かないまま(・・・・・・・・)ダメージを与えた。

 ガリウスの右手は握力の大半を喪失し、既に剣を握っているのが精一杯だった。



(俺の剛剣(ごうけん)を意に介さない馬鹿力と、それを正確に通す技術!!

学生レベルなんてものじゃない、既に現役の騎士を超えている!!)



 ガリウスはその優れた体格を活かした力頼りの剣術、“剛剣”を得意とする。

 故に今の打ち合いで理解した。

 細い体格に見合わず、ティグルもまた剛剣の使い手。

 そしてその剛力を正確に制御し、伝播させる技術力。

 その剣の腕は、既にガリウスの遥か高みにある。



(この齢でこの実力、天才なんてレベルじゃない……一体何なんだこの怪物は!?)



 前線を退いて久しく忘れていた、死への恐怖が頭をもたげていた。

 さながら今のガリウスは、虎に睨まれた(かわず)

 このまま正面から打ち合い続けば、敗北は必至(ひっし)である。



(――ここで退く訳にはいかん!)



 だが、しかし。

 ガリウスの瞳から、戦意は消えていなかった。



(ティグル・アーネスト。お前の実力は本物だ。剣の腕においては俺より上、それは認めよう)





(だが――それは、勝敗が決したことを意味しない)



 ガリウスは決死の覚悟を固めた。

 これは試験。彼が試験終了を言い渡せば、これ以上死地に留まる必要はなくなる。

 しかし、彼は戦闘を中止させるつもりはなかった。



(見定めなければならない。この少年の実力と、その正体を)



 彼の中に燻るのは使命感。

 それが死への恐怖を打ち消した。



(ティグル・アーネストが入学すれば、この学園は間違いなく揺れる(・・・)


(見極めなければならない。この少年が、学園にとって薬となるか毒となるか。そして今、それを行えるのは己だけ!

ガリウス・ガーランド! この学園と王国の将来は、お前の双肩にかかっていると思え!!)



 試験、続行。

 ガリウスは己を叱咤(しった)し、全てを賭けてティグルという底知れぬ虎穴(こけつ)へと飛び込んだ。





(一人称視点)



 ――素晴らしいな。


 俺は心の中で賞賛を送る。

 ガリウス・ガーランドという剣士は、今の一合を受けても折れずに、再び立ち向かってくる気配を見せた。


 ……ある程度剣に触れた者ならば、見ただけでおおよその実力は計り知れる。

 彼を見た時、剣の実力では俺の方が上だと確信した。

 体格差など問題にならない。故に一撃で俺の実力を見せつける為に、敢えて剣を破壊せず衝撃だけを通した。


 だが、彼の意志はまだ折れていない。



「やはり、剣士とはそうでなければな――!!」



 向こうが望んでいるのだ。俺が剣を納める訳にはいかない。

 そして、彼の眼はまだ諦めていない。俺に勝つための算段があるということか。



「あれ……? 二人とも一回打ち合って、固まっちゃったよ?」

「何してんだ? 先生もあんな平民、さっさと叩き潰せよ」

「なんか先生の顔が苦しそうじゃない?」

「え? 気のせいでしょ。ガリウス先生に力押しで勝てる人なんてそうはいないよ」



 生徒達の騒めきなど気にもならない。

 目の前の剣士に、意識を集中させていく。


 さあ、ガリウス・ガーランド。

 俺の【極点】を、如何(いか)にして攻略する?




「……先に言っておこう。ティグル・アーネスト」



 額を汗で濡らしたガリウスが、静かに告げた。



「ここからは全力で往く。お前程の実力者なら、死にはしないだろう。

……だが、腕の一本は覚悟して貰うぞ」


「いいとも」



 次の瞬間。

 ガリウス・ガーランドの切った手札は、俺に大きな衝撃を与えた。



「――【風装(ふうそう)】!」


「!」



 ガリウスを中心に、空気が渦を巻く。

 それは圧縮され密となり、彼の身体を包み込んだ。



「風の魔術……」


「その反応。風を使う剣士は初めてか?

――剣術と魔術。両方を極めてこその王国騎士だ。無論、俺も例外ではない」



 魔術。魔力を特殊な方法で放出し、様々な効果を生み出す技。

 俺の時代には(・・・・・・)存在しなかった技術(・・・・・・・・・)

 いや、厳密には存在はしていた。だが人間に扱える代物ではなく、魔物や魔族といった他の種族が扱う技術であった。



 だが現代では――人間が、魔術の力を手にしている。



「面白い」



 剣術と魔術。両方を兼ね備えた剣士。

 これが現代の剣士の戦い方。俺の知らない世界。



「俺に魅せてくれ――現代の剣士、その真髄を」


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