表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高の剣鬼やめます。転生したのでまずは学園で友達作りから〜ぼっち剣士、転生して次こそ最強を目指す〜  作者: 猫額とまり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/56

第43話 【極点:弐式】


(三人称視点)



 遥か昔。【剣鬼】が一人山に籠り、剣の研鑽を続けていた頃。

 長い修練の果てに【極点】を生み出した彼は、壁に突き当たっていた。



“【極点】だけでは通用しない。生き残る為には、更なる力が必要だ”



 彼が生きた時代は過酷であった。

 大気中の魔素が濃く、人類が安住できる地はほんの僅か。

 そこら中を魔物や魔族が闊歩(かっぽ)し、暴虐の限りを尽くし人類に(あだ)なしていた。

 懸命に築いた人類の都市が、一夜にして魔物に滅ぼされたという例も少なくない。


 そして彼が棲家としていた山奥も、その例外ではない。

 人間である彼を見つければ、たちまち襲いかかってくる魔物ばかり。

 剣を振るって抵抗するが、彼も当時は全盛に程遠い実力。何度も生死の境を彷徨った。

 魔物は他人から守ってくれるが、自分を守ってはくれないのだ。


 【極点】は強大な魔物の防御を貫くために編み出された格上狩り(ジャイアントキリング)の技。

 だがそれを用いても、刃の届かない怪物達がいる。



“【極点】で人間一人から掻き集められる力には限度がある”


“どんな守りも正面から斬り裂くような、圧倒的な力が必要だ”



 そう考えた彼は、解決の糸口を探して剣を振るった。

 人が立ち入らないこの魔境において、彼の師は魔物だけだった。

 魔物の力を盗み、技を盗み、それを斬り伏せ己の糧としてきた。

 今度もそれは変わらない。彼は今まで通り、獣から生きる術を見出そうとしていた。



”魔物の中には、周囲の魔力を取り込んで強化する個体もいる“


”だがそれができるのは、魔物の強靭な肉体あってこそ。人間の俺が同じ真似をすれば、肉体が耐えきれずに破裂するだろう“



 【極点】は、体内のエネルギーを一箇所に集める技だ。

 その箇所に掛かる負担は尋常ではない。肉体の限界を見極め、限界ギリギリまで力を蓄える必要がある。

 そこに外部から力を取り込めば、器から水がこぼれるように肉体は容易く崩壊するだろう。


 力の精密制御を行える優れた柔剣使いであれば、外部のエネルギーも上手く取り入れられるかもしれない。

 だが彼に柔剣術の才は無かった。有るのは剛剣術の才のみ。

 故に、彼の取り得る選択肢はただ一つ。



”――器の強化。体外の力を取り込んでも自壊しない、魔物のような強靭な肉体を作りあげるのだ“



”その為には……魔物の肉を喰らい、己が肉体に取り込む必要が、ある“





 こうして極点の次なる段階、【極点:弐式(にしき)】は完成に至った。

 それは千年の時を経て今、ティグルの肉体に再臨した。



「なんだそれは……なんだその力はァ!?」



 目の前の光景に、イードゥの表情から既に余裕は消え失せていた。

 魔人と化した己が、まるで矮小な蟻のように見える程の巨大な力。

 太陽の如きそれは彼の悲鳴すらも取り込んで、一層大きく膨らんだ。



「――万物には“力”が宿る。重力や魔力、剣と剣がぶつかり合う衝撃もそうだ。

俺はそれらを体内に留め、自在に循環させ解き放つ技術を編み出した。それが【極点】だ」



 人間の皮を脱ぎ捨て、全盛の姿――【剣鬼】として姿を露にしたティグルが、凪のように(ささや)く。

 その肉体は先ほどまでとは違い、明らかな変質を遂げていた。



「だが内外の力を留めておく為には、相応の器が必要となる。どれだけ相手の力を吸収し蓄えても、肉体という器を超過すれば自壊する。

故に俺は、魔物の肉を取り込む事で器を強固にした」



 筋肉と血管が膨張し、張り詰めた風船のように膨らんでいる。

 亀裂から水が漏れ出すように、目鼻や耳穴からどくどくと血が流れ落ちる。

 丹田(たんでん)に留められたその()は、あまりのエネルギー密度に発光し、生じた熱が血汗を蒸発させていた。



「器が大きくなればなるほど、身体の外にある力を己のものにできる。

そして今の俺ならば肉体の内外問わず、森羅万象……星そのもの(・・・・・)から力を取り込むこともできる。

――これが、【極点:弐式】だ」



 膂力(りょりょく)を、重力を、魔力を。

 大地を。空を。命を。

 風を、音を、熱を、光を。

 魔人と化したイードゥの力さえも。

 黒洞(ブラックホール)のように、餓虎(がこ)は星々を際限なく呑み込んでいく。




「魔物を、喰らう……? 俺と同じように魔を取り込んだ? そうか、魔の毒に耐性があったのはそのせいか!!

だがありえねぇ! 自然、いや星のエネルギーそのものを取り込むだと!? 正気の沙汰じゃねぇ、どんな生き方すればそんなイかれた結論に辿り着く……!?」



 リリも極点を使う際、力不足を補う為に外部から力を取り込んで補強はしていた。

 だがこれは次元が違う。人間の殻を脱し、肉体が変質するまで吸収と集中を繰り返した形態。


 魔人と化した今のイードゥだからこそ、その埒外の技量と力を理解してしまう。

 自身の命すら(かえり)みないこの極限の技を、果たして誰が模倣できるというのか。




 この形態となったティグルに、もはや取り込めないものはない。

 世界の全てを喰らい尽くし己の力とする。敵を斬り伏せるその瞬間まで。



(……とはいえ、今世では肉体も未成熟だし、魔物の肉もあまり取り込めていない。前世と比べれば爪の先程度の力だが――)



 剣を構える。

 周囲の熱が奪われ、王都が凍りつく。光が奪われ、夕夜の如く闇が広がる。

 奪った全てを一点に集め、万象を斬り裂く極点と化す。



(――お前を斬るには、十分な力だ)



「ッオォォォオオオオ!!! 魔剣クラレント!! 俺にもっと力を寄越せええぇぇぇぇ!!」


「最期に教えてやろう。【極点】とはつまるところ、ただの“溜め”に過ぎない。肉体の硬質化も破壊力も、力の吸収もその付随品(おまけ)でしかない」



 死を目の前にして、イードゥが必死の形相で力を掻き集める。

 だが落ちる恒星の前に、ちっぽけな蟻の力にどれだけ意味があるというのか。



「“溜め”は解き放ってこそ意味がある。全てを一点に溜め、放つ。それが【極点】の真髄だ」



 ティグルの力と星の力。全てを凝縮した極点が剣先に宿る。

 そして開けられた小さな穴から逃げ出すように、凝縮されたエネルギーは指向性を持って解き放たれた。



「弐式――【極点星滅(きょくてんせいめつ)】」



 ティグルの体内で循環し練り上げられたそれは、剣撃に乗って莫大な力の奔流と化した。

 全てを吹き飛ばす爆風。王都中に響く轟音。星が落ちたと錯覚する程の光。


 それらも全て呑み込み(・・・・・・・・・・)、全てを無駄なく一点に集め、斬った。





「――――」



 一切の無駄を生まず全てを注ぎ込まれた一閃は、無音であった。

 力の拡散によって生まれる爆風も轟音も光も、ティグルの剛剣は全てを凝縮したのだ。

 結果音もなく、風の流れすら乱さず、ただ“斬った”という結果だけが残された。



「しまったな」



 膨張する肉体を抑え込み、極度の疲労感に襲われながらティグルは呟いた。

 ティグルの剣は反動で砕け散り、イードゥは塵も残さず消し飛ばされていた。

 そうなるように斬ったのだから当然だが、一つだけ誤算があった。

 遥か空に浮かび上がる雲。それらが巨大な刃に切り裂かれたかのように、音もなく分かれていった。



「最後の最後で、制御の一部を手放してしまった……剣の頂には、まだ程遠いな」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ