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孤高の剣鬼やめます。転生したのでまずは学園で友達作りから〜ぼっち剣士、転生して次こそ最強を目指す〜  作者: 猫額とまり


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第41話 魔剣クラレント


(三人称視点)



「あらかた片付いたか」



 そう呟いてルフォス・ガラハッドは剣を鞘に納めた。

 彼の周りには【蟻の巣(アントネスト)】が用意した魔物の死骸が、大量に転がっている。



「学園長!」


「ガリウス教諭か。状況を、重傷者はいるのかい?」


「いえ……軽傷者は多いですが、重傷・死亡者はいません。ティグル・アーネストの要請で警備を強化しておいたのは幸いでした」


「そうか」



 ティグルとリリが学園を出てから、しばらく経つ。

 生徒と教師陣、応援に駆けつけた騎士のお陰で、学園内に侵入した魔物は全て駆除されていた。



「……にしても、突然街中に魔物が出るとは。一体敵はどんな手段を使ったんですかね」


「魔物は独特の魔力を周囲に放つ。かつあれ程の巨体となると隠蔽するのはほぼ不可能だろう。恐らく現地で発生した(・・・・)魔物だろうね」


「発生……? 生物が魔力を吸って変質したと? それは少し……」


「ああ。普通ならあり得ないことだ。生物が魔物に変質する為には、特殊な条件をいくつも満たした上で魔力を吸収する必要がある。魔力の薄い街中ではそれを満たすことはない」



 ルフォスの言葉に、ガリウスは何かに気づいたように目を見開く。

 普通ならあり得ないこと。だがこの世界には常識の外側に立ち、混沌を招く異分子(イレギュラー)が存在する。



「まさか【魔女】の仕業……!? 確かに奴らならば生物を魔物に変質させる術を持っていてもおかしくはない」


「魔女本人はここに来ていないだろう。近づけば私が気づくからね。恐らく魔女の力を宿した何らかのアイテム。敵はそれを使って魔物を生み出した」



 アヴァロン王国だけに留まらず、世界中でその悪名が知れ渡る魔女達。

 元円卓の騎士であるルフォスは何度も魔女と対峙してきた。当然、魔女に対してもそれなりに詳しい。そしてこのような外法を可能とする魔女の力にも心当たりがあった。



「魔女の遺産の一つ……“魔剣クラレント”か」


「なっ」


「ガリウス教諭も名前くらいは聞いたことがあるだろう。魔物から放たれていたこの赤黒い魔力には、少々覚えがある」



 その魔剣の銘は、騎士ならば誰もが知っている。

 アヴァロン王国の歴史に刻まれ、学校の授業でもその名が出る程だ。

 かつて世界中に殺戮と混沌を招いた、悪名高き魔女の遺産、血と簒奪(さんだつ)の魔剣。



「ティグル・アーネスト。君の対峙している敵は、思ったよりも恐ろしい存在かもしれないぞ」




(一人称視点)



「よぉ、遅かったな」



 浅黒い肌の男はそう言って、呑気に俺のことを待ち構えていた。

 王都の路地裏、その更に奥。恐らく魔術で隠蔽された気配を漂わせる廃墟。

 建築物の残骸を見る限り、教会だったのだろうか。

 だが神聖な気配は既に消え失せ、微かに邪気を纏う残り香(・・・)が俺の鼻腔をくすぐっていた。



「ここまで来たあんたに一つ朗報だ。俺たちの依頼人がやられちまったらしい。

良かったな? お前らの抹殺指令は白紙になったって訳だ」


「茶番はいい、俺たちを生かして帰すつもりなど(はな)からないだろう。目に宿った殺気が隠せていないぞ」


「まぁな。俺ら傭兵は信用が命。お前らみたいなガキに負けました、なんて噂が流れたら終わりなんだよ。だから依頼とは関係なく、俺らをコケにしたお前らには死んでもらうしかない」


「お喋りをするためにここまで来たのか? 貴様のような外道と交わす言葉など持ち合わせておらん」


「まあ焦るなって。どうせ最期なんだし、ちょっと世間話に付き合えよ」


 笑みを浮かべる男。談笑できるほどの余裕が含まれている。

 さっきの先頭で実力差はハッキリした。力は上回っていても、技量の差で奴には勝てる。

 だが奴にはまだ隠された切り札がある。あの不自然な回復力、それに力の吸収……




「ここは俺らの隠れ家の一つなんだ。王国の騎士サマは国外ばっかり気を向けて、王都のど真ん中に隠れ住む俺らに気づいてないんだぜ? 笑っちまうよな」


「御託はいい。こんな場所まで逃げ出して何をするつもりだ」


「逃げる? 違うな、コイツ(・・・)を回収しにきたんだ」



 ふと気づく。目の前の男が座っている場所。あれは教会の建造物ではない。

 ()だ。人が座ってくつろげるような、巨大な何かの骨が埋められている。



「俺が生まれるずっと前の話だ。ここから遥か東、“千年帝国”で暴れまくったドラゴンがいた。【凋零(ちょうれい)龍】と呼ばれたそのドラゴンは、周囲の生命力を吸い尽くして帝国を不毛の大地に変えたらしいぜ。最後は人間に(たお)されたけどな」


「――」


「だが話はそれで終わらない。【凋零龍】が人間を襲っていたのは、とある魔剣(・・)に操られていたからということが判明したからだ。

それも一匹じゃねぇ。百匹の龍だ。百振りの魔剣を揃え、百匹の龍を操り人間を襲わせた。

【凋零龍】はその中の一匹に過ぎなかったんだ」


「魔女、か」


「ああ。そんなイカれた真似ができるのも、企てるのも魔女しかいねぇ。世界中から恨みを買ったその元凶の魔女は滅ぼされたが、遺産として魔剣は今も残されている」



 俺は男の側に突き刺された、赤黒く脈動する剣を見る。

 魔剣。俺の前世には存在しなかったモノ。

 あの瘴気を放つ剣が、魔剣だというのか。



「“魔剣クラレント”。現代じゃそう呼ばれている。もっともこれは百振りの内の一本でしかないがな」


「……魔女が作った剣か。通りで尋常な雰囲気ではないと思った」


「魔剣には詳しくなさそうだが、魔女のヤバさは流石に知ってたか。

その遺産であるコイツを手に入れるのも苦労したんだぜ? お陰で故国から追われ、こんな遠い国まで来る羽目になっちまったが」


「余裕の態度はその魔剣からきているのか? 多少妙な能力を持っていたところで、俺と貴様の実力差を埋めるほどではないぞ」


「だから慌てるなって。これからが本題だっての」



 剣を抜き威嚇してみるが、奴は余裕の表情を崩さない。

 ……俺が奴の話を無視して突っ込まないのには、理由がある。

 教会、いやその地下に埋められたあの骨。そこから漂う邪悪な魔力が、あの男を守るように渦巻いているのだ。

 恐らく普通の魔力ではない。俺の本能が“これ以上近づくな”と警鐘を鳴らしていた。



「もう気づいてると思うが、俺の足元にあるこれは【凋零龍】の骨だ。デカ過ぎて持ち歩きできないもんで、わざわざここまで取りにきたのさ。

――そして魔剣クラレントには、他者の力を吸い取る能力がある」


「――――」



 地面に突き立てられた魔剣クラレントは、ドラゴンの死骸に残された魔力を吸い出していた。

 奴の周囲に漂っていたその(おぞ)ましい魔力は、奴の身を守るだけではなく。



「さっきまでの俺は便利な剣としてコイツを使ってたが、それじゃお前には勝てなさそうなんでな。

あまり使いたくなかったが、本来の使い方(・・・・・・)でお前を始末することにした」


「本来の使い方だと……?」


「魔剣クラレントは魔女の血そのもの(・・・・)だ。魔女の血みたく高濃度の魔力を含んだ物質は、基本的に人体には有害だ。

だが使い方によっては、毒も転じて薬になるんだぜ」



 漂っていた赤黒い瘴気が、奴の体内に吸収されていく。

 人間だった筈の男が、瞬く間に違う生物へと変質していく。



「例えば濃度を調節すれば、人間が魔術を覚醒させる材料になる。他にも生物を殺さない程度に侵食して、魔物に変質させることもできる

――これはその応用。人間を生きたまま(・・・・・・・・)魔に近づける技術(・・・・・・・・)


「――――」


「魔に近づけば魔女や魔物と同等の強大な力を得られる。だが一旦使うと元に戻れないのが難点でな、お前に追い詰められるまで使う機会がなかったって訳さ」



 男の変貌は完了していた。

 細身だった肉体は歪な筋肉で膨れ上がり、黒づくめの服装を内側から張り裂けさせている。

 浅黒い肌を這い回るように、赤黒い血管が脈動している。

 そして全身から発せられる禍々しい魔力と、龍の如く縦長となった瞳孔が、俺を睨みつけていた。



「これが正しい魔剣クラレントの使い方だ……

魔女の力、龍の力、そして人間の力。その全てを剛術で束ねた俺は、ハッキリ言って無敵だ」


「……無敵とは、随分と陳腐な言葉を使うようになったな。魔に近づくと精神まで落ちぶれるのか?」


「まあ少しくらい許してくれよ。こんな高揚と全能感は初めてなんだ。今なら円卓の騎士すら超えられる気がするぜ」



 傭兵の男、いや人間だった何かが、姿勢を低く屈める。

 それはこの世間話の終わりと、最後の戦いの開幕を告げるものだった。



「そういえば名乗ってなかったな。俺は毒蟻(イードゥ)だ。せめて殺される相手の名前くらいは知っておきたいだろう?」


「……ティグル・アーネストだ」


「騎士サマは律儀で良いねぇ。ぶっ壊してやりたくなる」



 そして俺たち以外誰もいない廃墟で、最後の激突が始まった。



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