表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高の剣鬼やめます。転生したのでまずは学園で友達作りから〜ぼっち剣士、転生して次こそ最強を目指す〜  作者: 猫額とまり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/56

第38話 フィレムという騎士


(フィレム視点)



「――フッ! ハアッ!」



 屋敷に備えられた修練場で、私は一人剣を振るっていた。

 稽古に付き合ってくれる者も父上も、もういない。

 それでも日課の剣の修行は毎日続けていた。



 ――私が自宅に軟禁されてから、数日。

 ティグル・アーネストに敗北した私は、学園の玉座から呆気なく転げ落ちた。

 そして父上にも見切りをつけられ、屋敷から許可なく外出することを禁じられた。


 敗北者にはお似合いの末路だった。

 私は一度も敗北したことがなかった。敗北を許されなかった。

 だがあの月下の決闘で……私はティグルに、完膚なきまでに敗北した。

 絶対に勝てないと、思い知らされた。


 リリとティグルは、この後どうなるのだろう。

 私がティグルに勝ち学園から追い出せば、彼らに被害が及ぶことはないと思っていた。

 だができなかった。私は弱かった。父上がこのまま黙っているとは思えない。

 けれど、私にあの父上に立ち向かうような勇気も力も、ない。



「――――」



 再び心に浮かんだ恐怖の影。それをを振り払うように、剣を握る手に力が入る。

 無心になって剣を振るう。感情を抑え込むのは得意だ。そう父上に教わったから。


 ……でも。きっと私はもう、誰かと剣を交えることはないのだろう。

 直に学園からも退学させられ、父上の都合の良い傀儡として一生を過ごす。

 それが敗北した私に残された未来だ。剣士としての私は、既に終わっている。



“お前は何のために剣を振るっているんだ?”



 ティグルの言葉が、ふと脳裏をよぎる。

 わからない。剣を振るう理由も、こうして意味もなく自主練をしている理由も。


 私はその答えから逃げるように、黙々と剣を振り続けた。





「……」



 軟禁から一週間近くは経っただろうか。

 今日も私は、一人剣を振るっていた。


 だが、明らかに集中できていない。

 気づいてはいた。ティグルに敗北したあの日から、私の心が徐々に剣から離れつつあることに。

 毎日毎日恐怖を押し込めて、剣を無心に振るっても。少しずつ私の本心は誤魔化せなくなってきていた。


 とっくに気づいていた。今の私の剣は、ただの現実逃避だ。

 父上とティグル。二人への恐怖と将来への絶望。そこから逃れる為だけに、思考停止で剣を振るっていただけに過ぎない。

 ただ私がその事実を、認めたくなかっただけ。



「やめよう、もう」



 私は剣を手放した。

 逃げるための剣に、これ以上の意味はない。

 どうせ逃げることなどできないのだから。

 剣はもう、これきりにしよう。





「……街が、騒がしいな」



 修練場から出て自室に戻った私は、いつもより外が騒がしいことに気づいた。

 王都は目と鼻の先だ。何かあれば私の耳に届く。

 ……喧騒(けんそう)は学園のある方角から聞こえてきた。

 何か、学園で事件でも起きたのだろうか。



「……考えても無駄か」



 今の私に外出は許可されていない。

 これ以上父上に迷惑を……ユーウェインの名に泥を塗るわけにはいかない。

 学園で何が起きていようと、私にできることはもう何もないのだ。


 ……ただなんとなく。これ以上自分の部屋に居続けたくはなかった。

 喧騒から逃げるように、私は静かな場所へと向かう。





「……」



 私が次に逃げ込んだ場所は、浴室だった。

 鍛錬で汗ばんだ身体が清められ、心地よい熱が全身を巡っていく。



「……」



 それでも、私の不安と恐怖は消えてはくれない。

 最後に残った剣すら手放し、私にはもう何も残されていない。

 何の価値もない私は父の傀儡となり、出世のための都合のいい道具になるのだろう。

 その内どこかの貴族と結婚させられ、子供でも生まされるのかもしれない。


 仕方のないことだった。敗北した私にはもうそれくらいの価値しかない。

 そうして次の後継を育て、一生をユーウェインという檻の中で過ごすのだろう。

 学園に通うことも、きっともうない。


 そこまで考えて、ふとリリの顔を思い出した。

 学園に通えなくなるということは、彼女と会う機会もなくなるということだ。



「結局一度も戦えなかったな」



 何度も何度も、私に決闘を申し込む変わった妖精だった。

 私はその都度断り続けた。リリが簡単に倒せる相手ではないとわかっていたから。

 戦って圧勝できなければまた、あの時(・・・)のように父に処理されると思ったから。


 けれどだめだった。急激な成長を遂げる妖精の噂は、父の耳にも入っていた。

 将来を脅かすかも知れない不穏因子。父が動く理由はそれで十分だった。

 そして一度も刃を交えることなく、リリは父の毒牙に掛かった。


 ……彼女とのやり取りを、思い出してしまう。




「ねぇ、あなたがフィレムって人間さん?」



 ……やめろ。私に話しかけるな。近づかないでくれ。



「この学校で一番強いんだよね? じゃあリリとどっちが強いか、勝負しようよ!」



 できない。お前は強い、戦えばお前は父に狙われる。



「学校でどっちが一番強いか決めようよ! リリと勝負しよ?」



 しつこい。私は戦わない。もう構うな。



「フィレムはいつも決闘を断っちゃうけど、どうしてなの?」



 言えない。何の証拠もないし、父には逆らえない。私はユーウェインの名を守らなければならない。



「フィレムー! 今日こそリリと戦ってよ!」



 頼むから、もうやめてくれ。私に近づかないでくれ。お前を傷つけたくはない。



「リリは諦めないよ! フィレムを倒して、絶対一番の剣士になってみせるんだから!」





 そして私の忠告は届かず、リリの夢は無惨に砕け散った。





 ……だが。それでも。お前は再び私の前に立った。



「私、まだ諦めてないよ……! 絶対フィレムと勝負して、私が勝つ! それでこの学園の一番になる!」



 以前と変わらない態度で、私にまた勝負を挑んできた。

 あの時はリリを遠ざけたくて、冷酷な態度をとってしまった。

 だけど今ならわかる。リリの強さが。彼女はあれだけ酷い目に遭ってなお、再び羽ばたいてみせたのだ。


 私とは大違いだ。

 父上に抗えず、公爵家という立場に甘んじて何もしない私には。

 夢に向かって真っ直ぐ羽ばたく、お前の姿は(まぶ)し過ぎる。



 リリ、お前はどうやって恐怖を乗り越えたんだ? 

 私はお前が羨ましいよ。

 けれどきっともう、会うことはない。



「…………ああ、そうか。後悔しているのか。私は」



 そこまで考えて、ようやく気づいた。

 私はリリという純粋な少女を、思いの(ほか)気に入っていたらしい。


 剣の頂という、無謀ともいえる夢に向かって真っ直ぐ手を伸ばす少女。

 他者に夢を妨げられても、諦めずに戦い続ける少女。


 私はその姿に、密かに憧憬(しょうけい)を抱いていたのだ。

 そして彼女の願いを聞いてあげられなかったことに、もう会えないことに後悔している。



「羨ましいよリリ。でも私は、お前みたいに純粋にはなれない……」



 貴族として、ユーウェインの一族として育てられた私には、リリのような生き方はできない。

 私にできるのは、誇りを守るための生き方だけ――



「ぁ」



“お前は何のために剣を振るっているんだ?”



 ふと、自然に(こたえ)が降りてきた。

 全てを捨て去り、まっさらな私になったからだろうか。

 それとも後悔に気づいたことで、私の奥底の願望が浮き彫りになったのだろうか。



 そうだ。私は、騎士になりたかったのだ。

 父上のような立派な騎士に。貴族の模範として、この国と民を守り抜く誇り高い騎士に。

 そして円卓の騎士になることが、幼い私の夢だった。

 そのために剣を振るっていたのだ。


 どうしてこんな大切なことを、自分の起源を忘れていたのだろう。

 父上が円卓の騎士から追放され、豹変したときからだろうか。

 初めての好敵手(ライバル)が父上の手にかかり、剣の道を閉ざされたときからだろうか。



 いや、そんなことはどうでもいい。

 私の夢、理想の姿。今の私はそれに相応しい姿だろうか?

 かつて目標とした父上は、今もそれに相応しい姿だろうか?




「違うな」




 私の夢は、そんな形じゃない。

 決して自分の好敵手を、闇討ちするような人間ではない。

 リリやティグルが父上の牙にかかる様を、見過ごすような騎士ではない……!


 ならばフィレム・ユーウェイン。いや、フィレム。

 お前はこの檻に閉じ込められたまま、生涯を終えていいのか?

 周りの全てを犠牲にしてでも、今の閉じた生活を守る必要はあるのか?



「違う」



 ならばフィレム。騎士としての私に問う。

 お前が本当に守りたいのは?



 ……その答えはとっくに知っている。



「こんな簡単な事に気づけなかったとは……愚か者は私の方だったな」



 大きな浴槽から立ち上がる。

 湯水で温められたものではない、けれど確かな熱が私の中でうねっていた。

 何もないと思っていた私の中に、まだこんな力があったことに自分でも驚きだった。


 幼い頃より植え付けられていた、父上の圧倒的な力に対する恐怖。

 私を閉じ込める(おり)だったはずのそれは、今ではとても小さく思えた。


 この熱のうねりに比べれば。

 リリへの憧れと、私の使命感に比べれば。

 そしてあの夜、ティグルに教えられた圧倒的な力と比べれば――



 こんな恐怖(もの)、大したことはない。




「出よう」



 私は浴室から出た。

 側に備え付けられた大きな鏡が、私の裸体を映し出している。


 今更立ち上がるのは、夢を追いかけるのは遅いかもしれない。

 きっと簡単な道のりではないだろう。道半ばで死ぬかもしれない。


 それでもいい。

 きっと今、私の本当の望みに耳を傾けないと、このまま一生後悔するだろうから。

 それがあの夜、ティグルから教わったことだ。



“お前は何のために剣を振るっているんだ?”



「騎士になるためだ。今の父上ではない、私が思い描く理想の騎士に」



 鏡の前の私に、そう力強く宣言する。

 刻み込むように。もう決して忘れないように。


 私は正しい理想を、夢を抱いて歩きたい。

 誰かに強制されたものではなく、自分で見つけた道を行きたい。

 リリのように、ティグルのように。あの憧れたちと同じように誇り高く生きたい。

 未練を残して生きるより、理想に燃え尽きて死にたい。


 私の本当の望みをはっきりと自覚する。

 心と身体が一体になるような感覚を覚えた。



「リリ。私もそこに行く、少し待っていてくれ」



 燃えたぎるような赤い長髪を、私は一束に()い上げた。





 私は迷いなく足を進める。

 いつもの書斎に、父上はいた。



「む……? フィレムか。なんだその髪型は、何をしている?」


「父上。お願いがあります」


「私は今忙しい。貴様の敗北の尻拭い(・・・)をしている最中なのだ。用があるなら後にしろ」


「いいえ。今、聞いて頂きます」



 父上は驚いたように目を見開いた。

 面と向かって歯向かったのは、これが初めてだろうか。


 私は鞘から静かに、剣を抜く。



「私と戦ってください。ユーウェインの当主の座を賭けて」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ