第33話 学園強襲
――広大な学園の敷地に、蟻型の魔物がたむろしていた。
三メートルはあろうかという巨体。生徒達や教師が応戦しているが、数が多い。
一体どこから現れた?
地上を這ってきたなど論外。空中や地下からきたとしても、これだけの図体なら俺も気づくはず。
この魔物共は、何もないところからいきなり現れたのだ。
「腕に自信のない者は第二闘技場に避難しろ! それ以外のものは戦え! 救援が来るまで持ち堪えろ!!」
塀を乗り越えて、あるいは穴を掘って、次々と魔物がやってくる。
だがこれだけ騒ぎになれば学園だけの話じゃなくなる。王都の騎士、あるいは【円卓の騎士】が緊急出動するだろう。
「ティグル! ここにいたのか」
「ガリウス先生」
「お前の忠告を聞いて警備を強めていたのが幸いした。だがお前の情報が正しければ……」
「はい。この襲撃は俺とリリを狙った策かもしれません」
このタイミングでの奇襲、間違いなく犯人は俺達を狙う輩と同じ。
動きが派手すぎるし、どういった方法を使ったのかも不明だが、学園に引きこもった俺たちを炙り出すという点では確かに有効だろう。
学園を混乱に陥れれば、強化した警備も機能不全を起こす。
「先生。俺達は学園の外に出ます。標的が学園から出れば学園を攻める理由はなくなるでしょう」
「……!? だめだ、危険過ぎる!」
「危険?」
俺は剣を振るう。
【孤月】。無動作から放たれた最速の一撃は、離れた場所にいた視界内の蟻共を残さず両断した。
遅れて噴き出した魔物の血が、俺の鼻腔を刺激する。
「なっ……」
「ガリウス先生なら知っているでしょう。俺は強い」
「ッ」
「巫山戯た真似をしでかした外道共。もはや生かしてはおかん」
俺は敢えてティグル・アーネストではなく、【剣鬼】としてそう告げた。
ガリウス先生には悪いが、この数日で尻尾すら掴めなかったこの国の騎士では犯人を捕らえられまい。
奴らは、俺自らの手で斬る。
「……今ので魔物の半分は削りました。残りは任せます。ルフォス学園長もいるし、きっと大丈夫でしょう。リリを見つけ次第、俺達は犯人を追います」
返事を待たず、窓の外から俺は飛び出す。
既に監視の気配はない。だがまだ近くにはいるはずだ。
この襲撃の主犯、黒幕を必ず見つけ出す。
【極点】が空中を蹴り、俺の体は空を舞った。
◆
(三人称視点)
「ん〜……まずます、ってとこだな」
【蟻の巣】の頭領、イードゥは学園の惨状を見て、少しつまらなさそうにそう評価した。
「破壊力は抜群だが、やはり悪目立ちし過ぎる。せっかく手に入れたから使ってみたんだが、なかなか使い所が難しいもんだなぁ」
「……魔物を街中に突如出現させられるというだけで、十分な能力かと」
「それくらいはやってくれなきゃ困る。せっかく苦労して手に入れた“魔剣”なんだからな」
イードゥの手にはまるで血を塗り固めたかのような赤黒い剣が握られている。
くるくるとそれを弄んでいると、部下から報告があった。
「頭領。向こうの被害はあまり大きくないみたいです。蟻の魔物が大して強くないのもありますが、個々の練度もそれなりに高い」
「まあ腐っても騎士養成学校だもんな。急造で拵えた魔物程度にやられはせんだろう」
イードゥの視線が上空に向く。
そこにはたまたま通りかかったであろう、鳥の群れが向かってくる所だった。
「丁度いい。次はあいつらにしよう――【狂月】」
イードゥが血塗られた剣を振るう。
離れた場所にいたにもかかわらず、その斬撃は寸分狂わず全ての鳥を斬りつけた。
「往け」
――魔物とは、動物が魔力を取り込んで凶暴化した生物である。
体内に魔力を蓄え、中には魔術を扱う個体もいる。
斬られた鳥達はまるで撃ち落とされたかのように、くるくると回りながら落ちていく。
それらが学園の校庭に着地する頃には……既に鳥は、鳥ではなくなっていた。
「Kyoeeee!!」
蟻型の魔物を明らかに上回る威圧感を放つ、数匹の鳥型の魔物。
新たに現れた侵入者は、まず手近にいた敵――妖精の少女を標的に定めた。




