表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高の剣鬼やめます。転生したのでまずは学園で友達作りから〜ぼっち剣士、転生して次こそ最強を目指す〜  作者: 猫額とまり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/56

第13話 流れ星


「――――――――」



 きっとそこに、彼女の起源(オリジン)があるはずだ。

 彼女が剣の道を志した理由。それが彼女を、再び立ち上がらせる動機になるかもしれない。

 触れられたくない過去かもしれない。だが俺が力になれる方法は、他には思いつかなかった。




「……。星を、見たの」



 数分か、数十分か。

 長い沈黙の果て、リリは搾り出すように声を出した。



「星?」


「夜空の星は、絶対に手が届かないところにあると思ってた。私は生まれてから毎日、ずっと夜空を眺めているしかなかったんだ」


「…………」


「でもね。私の前に星が落ちてきたの。流れ星みたいに。

――手の届くところに、落ちてきた」



 要領を得ない、曖昧な回答だった。

 きっと彼女もまだ、整理ができていないのだろう。きっとその感動を伝えようと、自分の中で必死に言葉を探している。

 だけど見つからなくて、どうやってもその感動を俺に伝えきれなくて、欠けた言葉が溢れ出ているのだ。

 彼女の翠緑に宿る光を見て、俺はそう確信した。



「その星は……その人(・・・)の剣は、今まで見た何よりも綺麗だった。

綺麗で、鋭くて、かっこよくて……“私にもできるかな”って、思っちゃったの」


「……。憧れ、か」


「女の騎士さんだよ。私を助けてくれたの。……あの人が言ったんだ。“これ以上剣を学びたいなら、学園に行きなさい”って」


「そうか……」



 全てを把握できたわけではない。だがリリの原点は理解できた。

 彼女を助けてくれた女騎士。その剣閃が、彼女の価値感を書き換えたのだ。

 それがリリには星のように見えて、彼女はそれを自分で掴み取ろうとしている。


 そして……夜空に向かって懸命に羽ばたき、手を伸ばす少女を。

 嘲笑い、踏み潰し、見せ物にした外道共がいる。



「いいのか、リリ」


「……?」


「このまま終わりでいいのか? やられっぱなしで、悔しくはないのか?」



 気づけば、俺の手は固く握りしめられていた。

 俺も思考が纏まっていない。ぐちゃぐちゃになった頭で、本能のままに言葉を紡いだ。



「敗北は誰にでもある。俺だって、負けたことはある」


「ティグルも……?」


「悔しかった。辛かった。死ぬほど絶望した。

でも立ち上がった。諦めきれなかった。

やっぱり俺の生き方はコレ(・・)が良いって、悔しさも辛さも絶望も全部噛み砕いた」


「……ッ」


「リリはそうじゃないのか? 悔しくはないのか? 襲った奴らにやり返したいって、思わないのか?」



 沈みつつある夕日が、リリの足元に影を落とした。

 水に沈んだ墨汁のように、ゆっくりとそれは広がっていく。





「くやしいよ……」




 少女のか細い悲鳴は、俺の耳に確かに届いた。

 闇夜と静寂が俺たちを包み、彼女の燐光と声だけが存在している。



「くやしいよ……やっつけたいよ!

でもこわいのっ! 手がふるえちゃうのっ!

また負けたらって思ったら、しずんで、まっくらになって、立ち上がれなくなるんだ……」


「――――」


「剣をまたやろうってかんがえたら、頭と胸がいたくなっちゃう。

もう傷はなおったのに、どうしていたくなるのか、わかんないんだ……

私のからだ、言うこときいてくれないの」




「どうすればいいのか、わかんないよ……」




 理屈ではない、感情によって刻まれた(トラウマ)

 それが彼女の見た星を、真っ黒に塗りつぶしてしまった。

 リリはずっと苦しんでいる。暗黒の底なし沼から、まだ抜け出せずにいる。


 けれど。



「安心したよ、リリ」


「ぇ……?」


「君はまだ、自分の夢を諦めてはいないんだな」



 ずっと、もがいている。

 彼女は諦めたわけではない。その野望の火は未だ消えていない。

 ……彼女の心は、まだ死んでいない。



「俺なら、リリに剣術を教えられる」


「……え?」


「リリをあいつらに負けないくらいに、強くすることができる。

……でもそれは、リリが再び剣を手に取れればの話だ」



 彼女が再起できるかどうかは、結局のところ彼女次第だ。

 それについて、俺が力になれる事はない。

 でもそこから先は、俺が手を引っ張ることはできる。



「リリ。俺ができるのは待つことだけだ。お前の心の傷を治すことはできない」


「――」


「敗北を真に受け入れる為には、自分を変えるしかないんだ。それができるのは紛れもない、リリ自身だけだ」


「――――」


「その為に手伝えることがあるなら、俺は何でも協力するよ」



 己を変えるための一歩は、“諦めないこと”。

 そして次の一歩は、リリ自身で見つけるしかない。

 一人では見つけられなくとも、俺にできることなら何度でも力になる。

 彼女が諦めない限り、絶対に。



「ティグルは……どうしてリリに、こんなに優しくしてくれるの……?」


「ん」



 底なし沼のようなまっ暗闇で、翠緑の瞳が揺らいでいる。



「リリは人間さんじゃなくて、妖精だよ? それにお話したのも昨日が初めて」


「そうだな」


「そんな人間さん、今までいなかった……どうして、ティグルはリリに優しくしてくれるの?」


「……俺が負けて落ち込んでた時と重なったから、かな」



 正直に、白状した。

 純真でまっすぐな彼女に、嘘はなるべくつきたくなかった。



「同情、ってこと?」


「そうなるかもな」


「……。えへへ。そっかー」



 魔術で作られた街灯が、闇夜の王都を遅刻気味に照らし始めた。

 ふにゃりと、リリの明るい笑顔が見えた。



「怖いのと違って、それならリリにもちょっとわかるかも」


「……もうちょっと、かっこいい理由があればよかったんだが」


「ううん。ティグルはもう十分かっこいいよ? だから大丈夫!」



 リリが俺の手を取った。

 白くて、綺麗で、か細い腕。

 だが紛れもない、剣士の腕だ。



「ほんとはね、まだ怖いのは消えてない。もしかしたら剣を持っても、震えて動けなくなっちゃうかもしれない」


「ああ」


「それでも、いいかな……? 私、まだ、剣士でいられるかな」


「立ち上がる限り、剣の道は終わらない。いや終わらせない。どれだけ惨めな敗北を喫してもだ」



 俺も、リリも、また立ち上がったばかり。

 一人じゃ無理でも手を取り合って、支え合うことはできるはずだ。


 リリが笑みを浮かべる。今日見た笑顔の中で、一番美しい笑顔だった。

 そっと、店の方角を指で差す。



「剣を、買おうと思うの。……ティグルに一緒に、選んで欲しい」


「……ああ。お安い御用(ごよう)だ」



 そして俺たちは手を取り合ったまま、店を閉めようとしていた店主に声を掛けた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ