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さくら  作者: 雨世界
6/6

 わたしは、今すれ違った綺麗な女性がさくらだとわかった。でも、さくらだとわかったけど、本当にさくらかどうかは振り返らないとわからない。(本当にさくらにているだけの違う人かもしれない)

 わたしは振り向くかどうか迷った。ずっと、このまま道の上で立ち止まっているわけにもいかない。わたしのうしろでは綺麗な女性がわたしと同じように立ち止まっていることがわかった。(人の気配があった)わたしはなんどもふりかえろうと思った。でも、わたしはうしろをふりかえらなかった。それはどうしてだろう? わたしにもよくわからなかった。自分のことなのに。わからなかった。わたしはそのままふりかえらずに道の上を歩き始めた。同じようにわたしのうしろで立ち止まっていた綺麗な女性が歩き出したことが気配でわかった。

 わたしはそのまま歩き続けて、そして、我慢できなくなって、少しして後ろを振り返った。でも、そこにある風景の中にさくらの姿はどこにもなくなっていた。

 わたしはそんなさくらのいない風景を見てから、歩き続けるたくさんのひとたちの邪魔にならないように、前を向いて大学に向かって歩き始めた。そこが今、わたしがいるべき場所だったからだ。

 それからわたしは結局さくらと一度も再会をしなかった。(わたしの結婚式のときにもさくらを呼ぶことはしなかった。さくらから連絡がくることもなかった)だからわたしの中にいるさくらは高校一年生のときのままで、成長が止まっていた。そして、わたしが思い出すさくらはいつも中学一年生のときに出会ったばかりのわたしの憧れたあのころのさくらばっかりだった。(あのときにすれ違った綺麗な女性が本当にさくらだったのかも、時間がたつにつれて自信がどんどんなくなっていった)

 生まれ故郷の田舎の町で仕事をしながら子育てをしているときに、ふとさくらのことを思い出すこともあった。そのときにわたしはいつもわたしとさくらは友達だったのかな? それとも本当は友達じゃなかったのかな? とそんなことを考えた。今思い出してみると、あんなに仲が良かったのに、ずっと一緒にいたのに、わたしはさくらのことを全然なにもしらないのだと思った。わたしは自分の生まれた一人娘の女の子にさくらと名前をつけた。(もちろん旦那さんときちんと話し合ってきめた)わたしはそんなことをするお母さんになったわたしが今もずっと、ずっとあのころの出会ったばかりの中学一年生の綺麗なさくらに憧れているのだとわかった。


 それは1990年のことで、もうずいぶんとむかし、むかしのことだった。


 さくら 終わり

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