兄(5)
意外にも新しい弟との関係は良好だった。
弟も新しい兄に、どう接してよいか判らないようで、そのせいで適度な距離を保てていたように思う。
「ここさ、夏になるとカブトムシやクワガタがよく来るんだ」
その日、俺は、弟と広い庭に居た。
「いつごろから来るの? カブトムシとかクワガタって」
「7月前には、結構、取れるよ」
とは言え、俺も捻くれた子供だった……いや大人になってからもそうだが……。
表面上は良い友人だった相手が、陰で俺の事を馬鹿にしていた。
少し前まで仲が良かった友達が、あっと言う間にいじめっ子になった。
そんな事が何度も有った。
いつしか、友達だと思っていた相手に裏切られるのは、自分に問題が有るのでは無いのか……そんな事を考えるようになっていた。
斜に構えた……冷笑的な……善意を嘲笑い、少しばかり悪い奴の方が頭が良くて現実主義者だ……そんな事を考えるのも個人の自由だし、大人になってからの俺は、まさに、そんな奴だった。
しかし、子供の頃も、大人になってからも、そんな考えを抱いていたせいで……俺は、どんどん、情けなく卑屈な人間になっていったように思う。
そして、作り話の中では「ニヒルで格好良いキャラ」が持ってるような考えに、現実の人間が取り憑かれてしまえば、どんどん情けない小物になってくだけだ……大人になって、そう気付いた頃には、とっくに手遅れだった。
この頃の俺も……表面上は上手く行っている「新しい弟」と心の中では距離を置いていたように思う。
むしろ、お互いに心の中で距離を置いていたから、表面上は上手く行っていたのか……。
「ところで、今の学校には慣れた?」
「あのさ……変な事、訊くけど……兄さんの学年では流行ってないの?」
「何が……」
「僕の学年だけなのかなぁ?」
「どうしたんだ?」
「学級閉鎖になるかもって……」
「どうして?」
「わかんない……」
「わかんないって?」
「変な病気みたいなのが流行ってて……でも、貧血って伝染病じゃないよね?」