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妹(5)

「今の『当り前』が『当り前』になったのは……多分、お前が生まれて以降だ」

 父になった叔父は、私に最初に稽古を付ける日に、そう言った。

 叔父が私の新しい父になって、最初の日曜日だった。

「二〇〇一年の九月一一日に、まだ『合衆国』だったアメリカで起きた事件のせいで、普通の人間は、自分達に無い能力の持ち主が……ファンタジーやアメコミの中の存在だと思っていたような者達が……山程居る事を知った。だが、我々もまた、普通の人間より遥かに驚いた。自分達の同類が、自分達が、それまで思っていたよりも、少なくとも2〜3桁は多い事を知ったせいだ」

 物置に見せ掛けた離れの2階の板張りの部屋。

 そこで、私と新しい父は、作務衣風の服を着て、向かい合って座っていた。

 正座ではなく、床にはやたらとフカフカした座布団を敷いて、足を崩した楽な姿勢だ。

「そこから、ようやく始まった……。『呪術』『魔法』『心霊術』……何と呼んでも良いが、そのような技術や能力を持つ者同士の流派・宗派を超えた交流がな。そして、我々は思い知った。我々が自分達の使う技術や能力について如何に無知だったかを……」

 そして、厳しい表情になって、こう続けた。

「お前の兄も、我々の無知の犠牲者の1人だ」

「えっ?」

「才能が有る筈の者が、何故か、大成出来ない……。どこの流派・宗派でも起きている事だった。しかし、ある流派・宗派で見落していた何かが、別の流派・宗派では既に判っていた事だった……そんな事は余りにも有りふれていた。ほんの十年かそこらで、どの宗派・流派も『他では当り前だったが、自分達は知らなかった事』を次々と知り、急速に……言わば『進化』していった。今となっては『当り前』だった事は、お前の兄が、お前の実家の養子になった時には、判っていなかった。他の流派・宗派でなら知っていた者達も居た。しかし、我が一族で知っていたのは……」

「居なかったの……?」

 叔父は……目を閉じて深呼吸をして、首を縦に振った。

「せめて、あと1年か2年……『本家』が、あの子を養子にしようとするのが遅ければ、あるいは……」

 叔父は悲痛な表情で続けた。

「お前の兄のような者は……良く居るらしい。普通の人間の中にもな。強い『力』を持ちながら、自分自身のモノも含めて『力』を認識する能力が欠けている……。その代りに、『呪術』『魔法』『心霊術』に極めて強い耐性を持っている。多分だが、一種の防衛反応だ」

「えっ?」

 だが……私は、まだ、気付いていなかった。

 叔父の言葉の裏にある……真の意味を……。

 一族の中で、最も良心的な男だった、この叔父すら……私に正直に話すのを躊躇(ためら)うような『一族の汚点』が存在している可能性に……。

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