魔女
「さて、どうしたものか」
返事は明日まで、と猶予を与えられたアンクとエアリアルは、困り果てておりました。
「やっぱり、拒否権はありませんのよね?」
「"いいえ"と言う事は出来るが普通は目上の者、しかも権力者に対してそんな事はしないな……」
「……そこは"君と離れたくない"と言うべき所でなくて?」
「どういう意味じゃ?」
「!?」
エアリアルは、驚いた顔のまま固まりました。
それから、少しの間、百面相を繰り広げてから、やっと怒りだします。
「もう!アンク坊ちゃまなんか知りません!」
そして、女王のいる宮殿に向かって泳ぎ去ってしまいました。
「なんじゃ!?どうした!?」
アンクはその後ろ姿を見送る事しか出来ませんでした。
そうして泳ぎ去って行ったエアリアルは、サングラスを外すと、色鮮やかな宮殿の中をあっちへこっちへ迷子のように泳いで見て周り、ついには大臣のいる部屋の水槽までやってきました。
エアリアルは、大臣の机の上の書類もしっかりと見てから、言いました。
「お邪魔してごめんあそばせ?陛下へのお返事が決まりましたの!私、陛下の仰せのままになります!」
大臣はぽかんとしておりましたが、その事はすぐに女王に伝えられました。
「さてもさても、矢の如く速い返事、感謝する。では良いか、人魚よ、貴様がこの国の地上に戻り来る事、二度と叶わぬと心得よ」
そう言って、女王はエアリアルを海へ放すと兵隊の鉄砲で驚かして海の中へ追いやってしまいました。
そして、こうも言いました。
「国中を探り、彼女の痕跡を全く消してしまうのじゃ。計画上におらぬ"幻像"が残っては煩わしくて敵わぬわ」
この国は、幻術に支えられているのです。
ありえないもの、誰も見たことがないもの、幻想的なものは全て、女王による造物でなければ扱いきれず、特に外交が立ち行かなくなるのでした。
海の中へ追いやられたエアリアルは、すぐに海の魔女の元へ向かいました。
「おやおや、誰が来たかと思えば、ずいぶん可愛らしい小娘だねぇ、吹けば飛びそうなほどに小さいじゃないか」
そう言って出迎えた海の魔女は、巨大な鯨の人魚でした。
ヒレをひとかきすれば大津波のような水流が起きます。
吹き飛ばされそうになりながら、エアリアルは怯まず言いました。
「ご機嫌よう、魔女様!訪れて早々に不躾なお願いなのですが、陸に上がれる足を私に頂けませんこと!?お礼として私の色を見る力と私が見てきたものを全てお捧げしますわ!」