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  作者: 夜穹
第一章
6/10

沼男

 挿絵(By みてみん)


 しばらくの時を経て完成した水路は、長大な水槽のような体躯を王国いっぱいに横たわらせ、大河のような量の水を通し、そして国のすみっこの街から王都ではなく、ぐにゃりと曲がってこれもまた海辺にある美術の街へと続いておりました。


 そして、美術の街の人々から注がれる好奇の視線の中、水路の中のエアリアルへ、ガラスに背を預けながら、長旅に疲れた様子のアンクはぽつぽつと語り始めました。


「さて、エアリアルよ、お前のグラサンは色を遮断する代物だと説明したな?」


「ええ、全てが白黒灰色ですわね」


 エアリアルは水の中から太陽とその光に照らされる街を見つめておりました。


「うむ、その3色まで断つとなると(めくら)になる他ないじゃろう。ゆえに厳密には鮮やかさを失わせる仕組みになっておると言うべきじゃの」


「鮮やかさは感情に関わると言いますものね」


「そして、この美術の街は、他の地に無い色を好んで追い求め、研究し、使いまくる。有名なのはベンタブラックとか世界一ピンクなピンクとかじゃの。当然ながら今俺の目の前にある街の風景はめちゃくちゃド派手じゃ、色だけでチカチカしておるわ」


 アンクは目をしぱしぱと開閉しながら言いました。


「えっ、そうなの?色が分からないだけで全然違って見えてしまうのね」


「そう、そこで!お前がこの街にしかない色についてその色を見た事が無い状態でみっちりと学び、その上で実際にその色を見た時に、もし何か学んだ事以外の見解なぞがあれば、少なくともお前は感覚質を持っておる事になるのじゃ、多分」


「感覚質?」


「神経、精神、心、さまざまな呼ばれ方はあるが、俺はそれこそが魂じゃろうと踏んでおる」


「まるで(わたくし)に心が無いかのような言い方ね」


 エアリアルは腕を組み、少し腹立たしげな様子を見せました。


「……"沼男"という思考実験があっての」


「それもただのたとえ話なのでしょう?」


「まあ聞け、ある男が、それも家族を持つ男が雷の鳴る中で家路を急いでおった。しかし男は雷に打たれ、そのまま死んでしまった。その時、男のかたわらの沼も同じく雷に打たれ、不思議な事に、沼の底の泥がその死んだ男と全く同じ姿形の人間となり、その男と同じ記憶を持ち、同じ仕草や行動をし、性格も似ているように見えた……さて、そうして生まれた"沼男"は、その後何事もなかったかのようにその男本人として生活し始める……では、その男本人と沼男に何か違いのある点は?」


「"沼の泥から生まれた事"でなくて?」


「それを見た者はおらん。そして男の家族や知り合いなど関係を持っていた人々からすれば何の影響もない事じゃ、ただ本人がある日マッパで帰ってきただけのことよ。何ならこの沼男は魂は持っておらずとも感覚質を持っておるやもしれん、死んだ男と同じものを」


「え?さっき感覚質が魂だと……」


「俺個人の持論じゃ、本当にそうとは限らん」


 写真機を向けてくる野次馬へ、適当なポーズを取りながら、アンクはそう答えます。


「つまりこの話が言うとるのは、本人と偽者を区別出来るような……たとえば模様の違いのようなものはあるのか?というものじゃ」


「い、今のって……そのようなおぞましい話だったの……?」


「これでおぞましいとは初々しい、もっとおぞましい例を見せてくれよう……そこの男!」


 と、二人を小さな携帯端末で撮っていた若者を、アンクは指しました。


「え?」


「お前でいい、お前にしよう、この"金貨のお坊ちゃま"こと第四皇子アンクが、お前に一つ奇跡を授ける!」


 と、金貨を掲げながら若者に近付いていったアンクは、その金貨に釘付けになり、手を伸ばそうとした若者の首まわりをがっしりと腕で固めて捕らえると、水路の続く国立のレストランへ引きずり込んでいきます。


「え!?え!?ちょっとぉ〜!?」


「まあまずは座って話じゃ!奢るぞ!」

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