魂
翌日、昼間の砂浜。
水路が作られて行く横で、アンクはエアリアルの言葉に首を傾げました。
「魂が、移る?」
「そう、我ら人魚は300年ほど生きるのだけれど、人間と違って魂を持ちませんから、死ぬと泡になり、骨も残らず消えてしまうのです。しかし、人間がいれば……」
「人間と交流する事で魂を得られる、というやつか?」
「それは……そうね、そうですわ」
本当は、人間と恋に落ちなければ、魂を得る事は出来ないのです。
それに魂が欲しいのも、死後アンクと共に冥土へ渡りたいが為だったのですが……。
しかし、エアリアルは、少しためらってしまってその事を伝えられませんでした。
そんな事はどこ吹く風で、アンクは唐突に切り出します。
「……エアリアルよ。あの夜、俺が飛び降りた理由について話そうか」
「あら、支障ありませんの?」
「必要な事じゃ。そもそも俺は、魂なるものが本当に存在するのか今でも疑問なのじゃ」
「は?それで飛び降りてみた、と?」
「そういう事になるのう」
「第四皇子……ですのよね?」
「お飾りに近いわ」
「だとしても、あなたの死はたくさんの人に関わるのではなくて?」
「死人に責なし!」
あっけらかんと言うアンクを、エアリアルは呆然と見つめました。
「……あなた、狂ってるわ」
「お前でもそこまではせんか?」
「しませんわよ!私今になって自分の名前が頭ごなしにつけられた酷い名前だと知ったわ!」
「海神もそう思し召して我々を引き合わせたのやもしれん……というのもまあ、魂がこの世にあるかどうかを確認するには、ひとまず魂が無いとされていて、人間ほど賢しい生き物が必要となるゆえのう」
「そ、そう……ですわね!?」
「時にたずねるが、お前は地上の色をどの程度まで知っておる?」
「地上、は……夜空の紺色と、星々の金と銀と、青空の色と、草の緑や岩色や土色……辺りまでかしら?」
アンクは目玉をくるりと回した。
「それは長くなりそうじゃのう……ではエアリアルよ、とりまそのグラサン二十年は着けておれ。肌身離さずじゃ。それでやっと実験が成立する、多分」
アンクの提案に今度はエアリアルが首を傾げました。
「サングラスを着け続ける実験……?」
「特に地上ではな。不完全ながら、ある実験の再現が出来るかもしれんのじゃ」
「どのような?」
「"メアリーの部屋"なるたとえ話があっての、全てが白と黒で統一された部屋の中で、白と黒以外の色についての知識を深く学びながら半生を過ごした少女、メアリーが、全ての知識を学び終えた後、部屋から出て普通の色にあふれた世界を見た時、予想通りだと思うのか、はたまた意外だと思う何かがあるのか、という内容の、疑問にして思考実験と呼ばれるものじゃ」
「……アンク坊ちゃま、その方法……ょり……」
エアリアルが何やら口ごもりました。
「やはり無理があるよのう」
「いえ、是非やってみたいわ!まずは試しに一年!私の知らない色に溢れた場所で!」