再会
「良い情報ばかりじゃないか、なんて優秀なお客だ!あんたの幸運を祈るよ!」
エアリアルの色覚と今まで見てきたものを受け取った魔女は大喜びでエアリアルに足を授け、陸まで送り出してくれました。
砂浜へ上がると、そこにちょうどアンクがおりました。
エアリアルが海へ放された話を聞き、もう一度出会えないものかと待ち構えていたのです。
しかし、エアリアルはアンクの姿も砂浜の景色も覚えておりませんでした。
「あら、初めまして、ここはどこかしら?」
「エアリアル!」
「……アンク坊ちゃま?」
声を聞いてやっとアンクに気付いたエアリアルは、少し不機嫌そうな顔になりました。
「あの後考えたんじゃ、俺にとってお前はどんな存在なのかを」
アンクは深呼吸をし、言葉を続けます。
「俺はお前の親友になりたい、と思っておる」
「親友?」
「今はただの友じゃ、付き合いも短い。しかしいつか、誰よりも屈託なく付き合っていけるような親友になりたいと、俺は思っておる。そしてこれをお前に言う権利は、お前が再び俺の前に現れる気になった時にこそ得られるものだとも考えておったのじゃ」
「そう……私は……」
"人間と恋に落ちれば、魂が得られる"
「私も、アンク坊ちゃまといつまでも思考実験をしていたいと思っておりますわ」
エアリアルは、緊張しながらそう言いました。
「その為に、海の魔女に色を見る力と色の記憶を捧げて、足をもらってきたのですから」
アンクは、呆然とエアリアルを見ました。
「実験を……続ける為に戻ってきたのか?」
「ええ、これでメアリーの部屋の実験が出来ますね」
「どうやって?」
「この状態で色についての知識を学び尽くした暁に、魔女から色を見る力だけを返してもらうのです。捧げたのはこれまで見てきたものの記憶と色を見る力ですから、片方返してもらうくらいならお釣りがきますわ」
「そうか……結果だけなら、お前が色覚を取り戻した時点で自ずと出てくる……しかしお前、何故そうまでして俺に協力してくれるのじゃ?鉄砲で追い払われたのじゃろ?人間が嫌いになってもおかしくはない」
「嫌いにはなりませんわ。だからこそ、もし私に魂がないという結果になったらお願いがありますの」
エアリアルはそこで口篭ります。
「言うてみよ」
エアリアルは、覚悟を決めて、口を開きました。
「人魚の口付けは、地上の人間を人魚に変え、海で生きられるようにする事が出来ます。アンク坊ちゃま、もし私に魂が宿っていなければ、私の恋人となって下さいまし」
アンクは、動揺はしていなかったものの、少し気まずそうな顔をしました。
「それはその時考えさせてくれ、俺達の友情はどうも異種の珍しさへの好奇心の上に成り立っているに過ぎん気がするのじゃ。特に俺は確実にのう……それはお前に対して失礼じゃ。故にこの話は長い時間をかけて解決していかねばならん」
エアリアルは、アンクの姿を観察していた日々を思い出しました。
魔女に奪われた記憶の中では、色はなく、モヤがかかってはっきりしない景色しか残っていなかったのですが、記憶は確かにありました。
「私は、アンク坊ちゃまをずっと見ておりました……今から命を投げ出さんとする姿が、あまりに儚くて……助けたくて……ああ、私も同じですね、これではあなたに失礼です」
「まあまずは親友になる事から始めようじゃないか。お前を女王から隠す場所も用意してある。俺はお前とお別れの会をする為に待っておったのではないのだぞ」
エアリアルの足だって、お別れを言いに行く為に生えている訳ではありませんでした。
初めての足で、おぼつかない足取りで、エアリアルはアンクへ駆け寄ります。
転びそうになったエアリアルを受け止めたアンクを、彼女はぎゅっと抱きしめました。
「ええ、ありがとうございます」
「急ごう。こんな形で会えると思っておらなんだから人目避けとか松葉杖とか準備が足りておらんのじゃ」
エアリアルを支えながら、アンクは王都へ続く道へ消えていきました。




