第3話 事後
とある魔導都市の中心に聳え立つ超高層タワーの屋上。
冷たい夜風が吹きすさぶ中、周囲の状況を確認する三人の黒装束の者達。そこへ同じく黒装束に身を包んだ者が一人合流した。
「都市の住人および三機の飛行戦艦の乗員は魔力切れで気絶しています。死者は確認されていません」
「そうか。さすがだな……だが」
リーダー格の男は報告の内容に満足しつつも、目的の人物が見当たらず不安を募らせていた。
都市全体を覆う巨大な魔法陣。
その効果による魔力強奪。
そして神力を想起させる強烈な波動。
黒装束の者達は都市から離れた場所でその様子を伺っていたが、強烈な波動をその身に受けたことで確信をもって都市に突入していた。
転生魔法は発動し、成功したと。
何よりここで妨害を目論んでいた者達もその影響で倒れている。
にも拘わらず、肝心の、【大賢者リュライ】の姿がない。
それは男にとって信じ難い状況であった。
「『リュライ』様は?」
「分からん」
俺が聞きたい! 男は、本当はそう苛立ちを込めて言い返したかったが、指揮官としてなんとか冷静さを保ち、改めて周囲を見渡した。
屋上には八名が気絶して倒れている。
聖女。騎士二人。魔導士。剣聖。冒険者三人。
男は事前にリュライの実験室で転生体となる少年を見せてもらっていた。
年齢は十二歳程で人族型。とくに特徴のある容姿ではなかったが、決して見間違わないようにと目に焼き付けていた。
だが、やはり少年も、転生前のリュライの姿も見当たらず、男は歯を軋ませる。
唯一の望みは転生と同時に転移が行われた可能性となるが、その場合、リュライの性格上自分たちに何かしらの成否の痕跡を残すだろうという推察が男にはあり、不安を払拭する要因とまではなっていなかった。それほど男はリュライを信じてしており、リュライも常に自分たちを慮った行動をしてくれると信頼していた。
「聖女が目覚めます!」
男はまだ混乱の中にいたが、判断は迅速であった。
「撤退!」
魔力を失っているとはいえ周囲で倒れているのは世界有数の実力者達。敗北はありえなくとも、どんな不測の事態を引き起こすか分からない者達という警戒心は常に抱いていた。
仲間の一人が撤退の合図である赤い閃光魔法を夜空に打ち上げる。
「待っ……あの男は……」
聖女と呼ばれた女がうつ伏せの状態のまま、絞り出すようにリーダー格の男の背に尋ねた。
が。返ってきたのは強烈な殺意であった。
「殺すぞ」
あの男という言い方が男には許せなかったようだ。
聖女は後悔した。使命感からとはいえ安易に声を掛けたことを。
これまで感じ事のない殺気に身を震わせ、存在を隠すように視線を落とした。
「他の者達も起きそうよ」
男の仲間の女が間に入る。
同時に余計事はするなよと視線で男に釘を刺した。
もとより男に何かをするつもりなどなかったが、男は口答えなどぜず素直に受け入れた。
男は知っているのだ。目の前の女の強さと状況判断の的確さを。
実力でいえば女が指揮を執ってもおかしくはなかったのだが、女自身が指揮官になることを拒み男を推挙、周囲も女の奔放な性格を懸念したため男が指揮を執ることとなっていた。
男は気を落ち着かせるために深く息を吐く。そして再び聖女に視線を向けた。
「巨大な石に押さえつけられていた欲望が世界に溢れ出す。混迷の始まりだ」
男は絶望した。大賢者リュライに失敗などありえないと信じているはずの自分が、暗に失敗を認める発言をしたことに。
「石と意志を掛けたのね」
「うるさい」




