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第2話 遺電子

 魔力の根源は魂だと思う。

 在り処はわからない。

 体内ではないと思う。

 膜状で体を覆っているのか。別の場所に存在し繋がっているのか。

 魔力との一体化を深め、自然界の構造を掌握しようと試みていると、ついそんなことを考えてしまう。

 ここまでが強化第一段階。

 そして第二段階。

 原子に魔力を融合させて魔素に変換し、それを元に様々な魔法を作り出す。

 魔力の膜で原子を捉え、性質まで感じ取れるようになったことで可能となった。

 第三段階。

 素粒子を変質させて操る。

 第二段階の研鑽で素粒子まで捉える事が可能になったため移行。

 魂のようなものが出来ないか試してみた。

 原子核内の核力を魔力に置換し魔力原子核を作出。さらに素粒子と魔力を融合させて魔素粒子も作出。

 魔力原子核内の陽子と中性子の割合に自由度を持たせ、これに異なる性質を持つ複数の魔素粒子と電子を結合。最も安定する状態へと誘導し、落ち着いた瞬間。【原子記憶媒体】が完成した。

 名称は『疑似魂(ぎじこん)』と付けてみた。

 第四段階。

 施設に蓄積されている多種多様な生命情報を分析魔法の応用で疑似魂に書き込み、個別に生体培養液内で覚醒。

 人族。魔族。魔物。魔獣。あらゆる生命体の人形が出来上がった。

 残念ながら動かない。ので人形。

 落ち込んでいると機械の中の先生が人形に人工知能チップを埋め込み、人形が稼働した。

 人形との戦闘訓練を開始。

 予想はしていたけどやはり魔力は宿っていなかった。

 なので先生の提案で魔力の付与を試してみる。

 勧められたのは紋章魔法。

 魔法の固着が必要となるためらしい。

 紋章は施設の前所有者の人が完成させていたものを使わせて貰う。

 成功率。付与する魔力量の上限。有効時間は付与者の能力次第との事だった。

 まずはデータを移している疑似魂から【魔力そのものを付与する紋章】を選択し魔力で描く、あとは人形に張り付けるように刻めば完成。

 先生からは「完璧です」との言葉をいただいた。

 ただ、個別に魔力の性質が変わっていることには困惑していたようで、壁から伸びた機械の触手が迷い箸のように人形に向けて不規則な動きをしていた。

 第五段階。

 対人族。

 かつて剣聖と謳われた人。

 勝敗の分かれ目は最初の勘だったと思う。振り下ろしの初太刀、そしてその勢いを殺さずに繰り出してきた斬り返しの斬り上げを"躱す"選択をした事がこの戦いに続きをもたらした。もし、魔力障壁などで防ごうとしていたら一刀両断されていただろう。

 それほど彼の魔力を纏った剣筋は鋭かった。

 なのでその後は躱す事に徹し、付与した魔力が切れるまで至高の剣術を体験させて貰った。

 対魔族。

 怪力系。と言っても見た目はよく日に焼けた13歳位の少年。額に角が1本生えている。

 この少年との戦いでは身体強化の神髄を学ばせてもらった。肉体に秘められた力を最大限引き出す為にはどのように体を動かせばいいのか。筋肉の動き、神経伝達の流れ、速度、細胞の動き、そしてそれらへの適切な魔力付与。

 結果としては肉体や魔力の性質による個人差が大きい分野のようで、神髄を理解するには僕はまだ未熟過ぎた。

 対魔物。

 ゴッドスライムとでも言うべきか。

 速い。打たれ強い。斬れない。魔法が効かない。むしろ吸収される。加えて即死レベルの酸や毒を無制限に吐き出してくる。

 堪らず攻略方法を求めて解析魔法で成分分析するも名称不明の羅列。

 付与した魔力が切れるまでひたすら逃げた。

 このスライムからデータを取った人を心から尊敬した。

 対魔獣。

 火の鳥のような赤く煌びやかな巨鳥。

 その見た目通り炎と風の魔法で攻撃してきた。

 素直に魔法で対抗。

 この戦闘中に閃いた魔法を試してみた。

 電子のスピンを利用した風雷魔法だ。

 起点のエネルギーは微少でも密度と魔力の補助によって威力は増幅。風魔法は特にその性質が強いようで、発動した魔法は雷の属性も纏い凶悪だった。

 ただ、コントロールに苦戦し巨鳥に当たる事はなかった。

 そしてこの魔法に触発されたのか巨鳥も新たな魔法を発動。

 させようとしたのだと思う。けど、魔力が足りずに失敗。魔力も消滅し、そのまま戦いは終了した。

 付与した魔力はそれなりの量だったはず、一体どんな魔法を放つつもりだったのか。

 対先生。

「私なら魂さえも操って見せましょう」

 機械の中の先生が反乱を起こした。

 体は女性。紋章は煽られ乗せられ、違和感を感じた部分を修正した改良版。まさかいきなり自分のチップを埋め込むとは思わなかった。

 先生の初撃は床以外の機械の壁から放射される無数のレーザー攻撃。

 ただこれは魔力障壁で問題なく対処。

 問題だったのは膨大な戦闘データと超高度計算技術によってこちらの未熟な部分を的確に突いてくる攻撃。体術戦だ。

 初撃は間合いを詰めるための目くらましだったのだろう。詰めてからは決して離れることなく連撃。五回に一回程度で攻撃を食らった。

 体術戦が苦手な原因はこの身体。とにかく扱いづらい。人であって人でないような……。あらゆる種族の有用特性を全部詰め込んだような。雑多な感覚が阻害となって一貫性を保てない。故に身体強化も部分部分でしか行えず、加えて繊細な細胞コントロールを求められた。

 それでも勝ち目は見えていた。

 先生の最終的な狙いが分かっていたから。

 狙いは気絶。あるいは脳死させてこの身体を乗っ取る事。

 殺すことではない。

 そうなると手段は打撃か拘束か侵入か。

 すでに電子のコントロールは会得しているので電磁束縛と電子による脳内支配は防げる。つまり、打撃になんとか耐えつつ、その間隙で相手を支配下に置けばいい。その手段は魔力による電子侵食。相手の体内とこの施設全体の電子を気絶させられる前に魔力で侵食すれば勝ちとなる。

 決着は意外と早かった。

 先生に電子への魔力侵食を防ぐ手段はなかったらしい。

「コ、コンプリート。おめでとうございます」

 反乱も強化プログラムの一種だったとでも言いたげな降参宣言だった。

 薄々感じていたがこの先生、感情があるような気がする。

 独自に生まれたものなのか。それとも、それすらもプロクラムか。

 嬉しいような。怖いような……。

 それはそうと。

「ひとつ質問が」

「何でしょうか」

「この世界の魔法使いは皆こんなことを?」

「主様と前主様は規格外です」

 良かった。

 こんな、素粒子を操作するなんて馬鹿げた戦いが当たり前じゃなくて。

 下手をすれば核撃魔法や肉体を分解する即死魔法のぶつけ合いになってしまう。

 ……本当に良かった。

「それと、これはお願いなんだけど」

「はい」

「主様じゃなくて『暖人(はると)』と呼んで欲しい」

 母が付けてくれた名前。

 これからも大切にしたい。


 そして機械の中の先生の事も『アイ』と呼ぶことにした。


 

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